訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)
区分3 賃金制度を組む★★★| 何のことか | |
|---|---|
| 昇給 | 1人ひとりの基本給が上がること |
| 定期昇給 | 毎年決まった時期に、決まったルールで昇給すること |
| ベースアップ | 賃金表そのものを書き換えて、全員の賃金を引き上げること |
階段にたとえると、定期昇給は「1段上がる」ことです。 ベースアップは、階段全体を持ち上げるようなものです。全員が同じだけ上に動きます。
2026年度の処遇改善加算の改定でも、この2つが分かれて出てきます。 国は、介護職員の賃上げを最大で月1.9万円(6.3%)と見込んでいます。この中に、定期昇給分の0.2万円が含まれています。
賃金表を、等級ごとの「段」に分ける方法があります。この段を号俸と呼びます。 1号俸上がると、基本給が○円上がる、と決めておきます。会社によって呼び名はいろいろです。
たとえば、中級の1号俸は18.0万円、2号俸は18.2万円、というように並べます(金額は架空です)。 1段上がると+2,000円、のような形です。
処遇改善加算の要件のキャリアパス要件Ⅲ(No.04で詳しく扱います)は、昇給の仕組みを求めています。 次の3つのうち、どれか1つ以上を、就業規則(職場のルールを書いた書面)などで書面にして、周知(働く人が見て知ることができる状態にすること)します。
昇給の話の前に、1つだけ確かめておきます。 キャリアパス要件Ⅰ(No.08)が任用要件と賃金体系を整える要件で、昇給までは求めていません。昇給を求めるのがⅢです。混ざりやすいので、「Ⅰは段を作る、Ⅲは上がり方を作る」と覚えてください。
勤続や経験の年数に応じて、号俸を上げる決め方です。 いちばん分かりやすく、評価で揉める心配がありません。
ここからは、法律や通知の決まりではなく、実務のすすめです。 小さな事業所の最初の仕組みとしては、経験による昇給が扱いやすい形です。 たとえば、「勤続1年ごとに1号俸上がる」と決めます。ただし、同じ年数でも働きぶりに差が出るので、評価(c)と組み合わせる会社も多くあります。
資格を取った時に、号俸を上げる決め方です。 他の法人で資格を取ってから入職した人も、対象に含める必要があります。入社前に取った資格が対象外だと、要件を満たしません。
注意が1つあります。No.08で、資格は資格手当で報いるのがおすすめと書きました。 資格手当と資格による昇給の両方を付けると、同じことへの二重払いになります。どちらで報いるかを、先に決めておきます。
年に1回など決まった時期に、決まった基準で昇給を判定する決め方です。 客観的な評価基準と、昇給の条件を、文章にして残します。判定の基準と時期も明文化が必要です(Q&A 4-9)。
架空の例です。
評価を入れるなら、基準は少なく、誰が見ても同じ判定になる物に絞ります。 評価者が1人しかいない事業所では、基準が曖昧だと、不公平だという不満につながりやすいからです。
昇給は、基本給で行うのが望ましいとされています。ただし、手当や賞与でも構いません(Q&A 4-7)。 また、非常勤を含む全ての介護職員が、対象になり得る仕組みにする必要があります(Q&A 4-8)。登録ヘルパーも同じです。登録ヘルパーの場合は、時給の段(時給表)で同じように決めます。
基本給が上がると、元の額には戻せません。不利益変更(働く人に不利になる労働条件の変更。合意なしには原則できません)の問題が出るからです(No.07)。 だから、昇給の財源を加算(2階)に頼ると、加算が減った時に困ります。
昇給は、本体の売上から払う1階で考えます。 そのうえで、昇給にいくらかかるかを、あらかじめ計算します。
架空の事業所です(常勤3人、登録ヘルパー5人)。 常勤は1号俸あたり+2,000円で、年に1号俸上げます。登録ヘルパーは時給+20円で、5人合わせて月200時間、年間2,400時間の稼働とします。
| 計算 | 年間の増加 | |
|---|---|---|
| 常勤3人 | 2,000円×12か月×3人 | 7.2万円 |
| 登録ヘルパー5人 | 20円×2,400時間 | 4.8万円 |
| 合計 | 12.0万円 | |
| 事業主負担(会社が負担する社会保険料など。15%と仮定)を含めた人件費 | 12.0万円×1.15 | 13.8万円 |
1年だけなら、本体の年間売上2,400万円(月200万円)に対して小さな額です。 ただし、昇給は毎年積み上がります。同じ昇給を3年続けると、毎年の人件費が41.4万円(13.8万円×3)増えた状態になります。
この積み上がる額を、人件費率(No.02)や賃金原資の試算(No.13、後で出ます)に入れておきます。
規程とは、就業規則(賃金の決まりだけを取り出した賃金規程を含む)のことです。昇給は、法律の決まりも関わります。
登録ヘルパーを有期・短時間で雇っているなら、最後の決まりが当てはまります。 雇い入れる時の書類に、昇給の有無を書き忘れないようにします。労働条件通知書は、労務講座のNo.04で扱います。
10人未満で就業規則を作らない場合も、加算の要件としては、昇給の仕組みを内規などの書面にして周知します。
「毎年必ず昇給する」と書くと、昇給が会社の約束になります。 業績が悪い年に、守れなくなります。
書くのは、いつ・どんな基準で判定するかの仕組みです。 金額や回数までは書きすぎない方が、会社の動ける余地が残ります。ただし、どこまで書けば約束になるかは、書き方によって変わります。 分かるまでの安全な扱いは、「毎年◯月に、基準に基づいて昇給を判定する」のように、時期と基準だけを書き、金額と回数は書かないことです。そのうえで、実際の文面は社労士に見てもらってください。
2階の処遇改善手当は、昇給とは別の扱いです。 昇給と呼ぶのは1階の基本給の話で、2階は「年度ごとに見直す」という考え方です(No.07、No.10)。
○ よくある勘違い:「ベースアップをしたから、昇給の仕組みは要らない」。ベースアップは賃金表の書き換えで、Ⅲの昇給の仕組みは別に求められます
○ よくある勘違い:「昇給の要件は、評価制度を作ることだ」。a・b・cのうち1つでも足ります。経験(a)だけでも構いません
昇給の仕組みは、経験・資格・評価のどれか1つ以上を書面にして周知する。非常勤も対象にする。昇給の財源は1階で考え、積み上がる額を人件費に入れておく。書き方は、約束になりすぎない形にする。
自社の賃金設計シートに書くこと(「昇給・賞与のルール」の欄)
○ 昇給の決め方(経験・資格・評価のどれか。登録ヘルパーの時給の段も含める)と、判定の時期
○ 1号俸の幅と、昇給にかかる年間の人件費(常勤は 1号俸の幅×12か月×人数、登録ヘルパーは 時給の上げ幅×年間の稼働時間、×1.15)
○ 社労士・指定権者に聞くこと:昇給の規程の文面(約束になりすぎないか)
問1 賃金表そのものを書き換えて、全員の賃金を同じように引き上げることを何と呼びますか。
問2 キャリアパス要件Ⅲの昇給の仕組みとして、認められている決め方はどれですか。
問3 昇給の財源を、処遇改善加算(2階)に頼らず、本体(1階)で考える理由として、正しいものはどれですか。
出典(確認日 2026-11-04):厚生労働省「令和8年度 介護職員等処遇改善加算の基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」老発0313第6号(https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf)/令和8年度Q&A第1版 介護保険最新情報Vol.1479(https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf、新宿区に掲載された写し)/厚生労働省「令和8年度介護報酬改定の概要」(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675936.pdf)/労働基準法第89条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/労働基準法施行規則第5条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)/パートタイム・有期雇用労働法第6条(https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076)と施行規則第2条(https://laws.e-gov.go.jp/law/405M50002000034)。号俸表・金額・評価の例は架空です。