訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分3 賃金制度を組む★★★

No.08 等級と任用要件(キャリアパスの作り方)

働く人の「役割の段」(等級)を作り、その段に就くための条件(任用要件)を決める単元です。加算の要件(キャリアパス要件Ⅰ)を満たす中心の作業で、賃金表の骨組みにもなります。ここで決めた段が、No.09以降の昇給や手当の土台になります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 等級を作る
  3. 第2章 任用要件を1行で書く
  4. 第3章 加算の他の要件とのつながり
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 等級と任用要件 :役割の段と、その段に就く条件

学校の学年にたとえると、等級が「何年生か」で、任用要件が「進級の条件」です。 学年が上がれば、任される仕事と責任が変わります。

② キャリアパス要件Ⅰ :任用要件と賃金体系を、書面で決めること

処遇改善加算の要件の1つに、キャリアパス要件Ⅰがあります(No.04で詳しく扱います)。キャリアパスとは、働く人の役割と賃金が上がっていく道筋のことです。 中身は、次の3つです。

就業規則とは、賃金・労働時間などの職場のルールを書いた書面です。賃金の決まりだけを取り出した物が賃金規程で、就業規則の一部です。周知とは、働く人が見て知ることができる状態にすることです。 常時雇用が10人未満で、就業規則の作成義務がない事業所は、内規でも構いません。 労働基準法(労基法)第89条で、就業規則の作成と届出の義務があるのは、常時10人以上の労働者(法律の言葉で、会社に雇われて働く人)を使う会社です。

③ 似た言葉との違い

何のことか
資格 持っている免許や修了証(介護福祉士・実務者研修・初任者研修など)。国や機関が与える物です
等級 会社の中での役割の段。会社が決めます
職位 「主任」「サービス提供責任者(サ責)」のような呼び名

資格を持っていることと、役割の段が高いことは、別の話です。 この区別が、この単元の中心になります。

第1章 等級を作る

① 厚生労働省の例は3段 さらっと

令和8年度(2026年4月〜2027年3月)の通知の様式には、小規模事業所向けの例として、訪問系の簡易版が入っています。 職位は3段階です。

職位 職責 任用要件 常勤(月給) 非常勤(時給)
上級(主任) 高度な業務・他の職員への指導 勤続●年以上 基本給+経験手当+役職手当 時給+経験手当
中級 通常の介護業務・他の職員への助言 勤続●年以上 基本給+資格手当 時給+資格手当
初級 通常の介護業務 入社時から 基本給+資格手当 時給+資格手当

注記に、任用要件の勤続年数や研修の受講状況に応じて昇給する、と書かれています。 金額と年数は「●」のままで、厚生労働省は示していません。自分の会社の数字は、自分で決めます。

従業員が10人弱の事業所なら、3段で十分です。 段を細かく刻むと、1つの段に1人しかいなくなり、制度が使えなくなります。

② 等級は役割、資格は手当 必ず覚える

ここからは、法律や通知の決まりではなく、実務のすすめです。

資格を持っているだけで等級を上げると、資格のない人に高い役割を任せられなくなります。 反対に、資格で等級が決まるうえに資格手当まで付けると、同じことに二重に払うことになります。

資格手当の額を決める時の材料は、公的な調査にあります。 厚生労働省の令和6年度処遇状況等調査では、介護職員(月給・常勤、2024年9月時点)の資格別の平均給与額は次のとおりです。

資格 平均給与額 資格なしとの差
介護福祉士 350,050円 59,430円
実務者研修 327,260円 36,640円
初任者研修 324,830円 34,210円
資格なし 290,620円 ―

この差は、勤続年数など資格以外の違いも含んだ平均です。 資格手当の額そのものではなく、「世間の水準はこのくらい」という目安として使います。国は、手当の金額のモデルを示していません。

③ 常勤と登録ヘルパーの組み立て さらっと

賃金の組み立ては、働き方で分けます。

登録ヘルパーも等級に入れて、同じ役割なら同じ段に置きます。 非常勤を等級から外すと、あとで昇給の要件(No.09)でも、同一労働同一賃金(No.10・No.11)でも、説明に困ります。時給の決め方は、No.11で扱います(後で出ます)。

第2章 任用要件を1行で書く

① 任用要件の材料は3つ 必ず覚える

任用要件は、次の3つを組み合わせて、1つの等級につき1行で書きます。

架空の例です。年数は会社が決めるので、あくまで見本です。

等級 任用要件(1行)
初級 入社時から
中級 初級で勤続3年以上で、年間の研修計画を終えていること
上級(主任) 中級で勤続5年以上で、他の職員への助言を担い、面談で会社が認めた人

1行で言えない要件は、あとで「この人はなぜ上がったのか」が説明できなくなります。 人の名前が入った要件(「〇〇さんが認めた人」)も避けます。人が代わっても使える書き方にします。

通知は、任用要件に「賃金に関する物を含む」と書いています。 分かるまでの安全な扱いは、任用要件の欄に、その等級の基本給の幅と付く手当も書き添えておくことです。 そのうえで、どう書けば足りるかを、指定権者(事業所を指定した市や都道府県)か、無料の個別相談で確かめてください。厚生労働省の「処遇改善加算 個別相談支援」では、社会保険労務士(社労士)にオンラインで無料相談ができます(2026年4月から2027年3月まで、定員に達したら終了。https://kaigo-shogukaizen.mhlw.go.jp)。

② 賃金体系と等級を結ぶ さらっと

任用要件ができたら、等級ごとの賃金の組み立てを書きます。

ここで書くのは、毎月払う賃金です。 一時金など臨時の物は、賃金体系から除くと通知が書いています。基本給の幅と昇給の仕組みは、No.09で扱います。

③ 書面にして、全員に周知する 必ず覚える

任用要件と賃金体系は、書面にして、全ての介護職員に周知します。 登録ヘルパーも含みます。就業規則(10人未満なら内規)にして、全員が読める状態にします。

周知の手順は、No.14で扱います(後で出ます)。

第3章 加算の他の要件とのつながり

① 上級の等級は、経験・技能のある介護職員と重ねる さらっと

加算には、「経験・技能のある介護職員」のうち1人以上が年額440万円以上になるという要件があります(キャリアパス要件Ⅳ、No.04)。 この「経験・技能のある介護職員」は、勤続10年以上の介護福祉士が基本です。他の法人での経験も通算でき、事業所の裁量で決められます(Q&A 5-3)。

そこで、上級の任用要件を、この定義と重なるように作っておくと、要件を満たしやすくなります。 440万円には手当が含まれ、事業主負担(会社が負担する社会保険料など。法定福利費ともいう)は含まれません(Q&A 5-1)。

小規模で、人数のバランスが取れない場合などは、合理的な説明があれば満たさなくてよいとされています(Q&A 5-8)。 昇給の仕組みは、次の単元(No.09)です。

○ よくある勘違い:「資格を取ったら、自動的に上の等級に上がる」。資格は手当で報い、等級は役割で決める(実務のすすめ)
○ よくある勘違い:「就業規則を作る義務がないから、決めなくてよい」。加算の要件としては、内規でも書面にして周知する必要があります

等級は役割の段で、厚生労働省の例は3段。資格は手当で報い、等級は役割で決める。任用要件は1行で書き、賃金体系とあわせて、書面にして全ての介護職員(登録ヘルパーも)に周知する。

自社の賃金設計シートに書くこと(「等級・基本給・資格手当」の欄)
○ 等級の数(3段が目安)と、各等級の任用要件を1行ずつ
○ 等級ごとの基本給の幅(下限・上限)と、資格手当の額
○ 社労士・指定権者に聞くこと:任用要件に「賃金に関する物」をどう書けば足りるか

確認問題

問1 実務者研修を修了したヘルパーが「資格を取ったので、中級に上げてください」と言ってきました。この講座の考え方で、正しい答えはどれですか。

問2 常時雇用が8人で、就業規則の作成義務がない事業所です。キャリアパス要件Ⅰのために必要なことは?

問3 厚生労働省が示した訪問系の簡易版の例について、正しい説明はどれですか。

出典(確認日 2026-11-04):厚生労働省「令和8年度 介護職員等処遇改善加算の基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」老発0313第6号、様式「キャリアパス・賃金規程例(小規模事業所用)訪問系(簡易版)」(https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf)/令和8年度Q&A第1版 介護保険最新情報Vol.1479(https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf、新宿区に掲載された写し)/厚生労働省「令和6年度介護従事者処遇状況等調査 概要」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/24/dl/r06gaiyou.pdf)/厚生労働省「処遇改善加算 個別相談支援」(https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/23_kobetsu_up.pdf)/労働基準法第89条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)。表の任用要件・年数は架空の見本です。