訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分3 賃金制度を組む★★★

No.10 賞与と一時金のルール

賞与と、処遇改善加算を年度内に配り切るための一時金を、並べて扱う単元です。賞与は書き方しだいで会社の義務になり、一時金は払い切れないと加算を返すことになります。区分3でいちばん間違えやすい所なので、書き方と計算の両方を手を動かして確かめます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 賞与のルール
  3. 第2章 パート・有期の人にも賞与を払うか
  4. 第3章 処遇改善一時金のルール
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 賞与 :会社の業績などを見て、会社が決めて払う一時金

賞与は、ボーナスのことです。 毎月の給与とは別に、夏と冬など決まった時期にまとめて払うことが多い一時金です。

ここで大事なのは、法律に「賞与を払いなさい」という決まりがないことです。 払うかどうかと額は、会社が決められます。ただし、決め方の書き方によっては、払う約束になることがあります(第1章)。

② 処遇改善一時金 :加算を配り切るために払う一時金

No.07で出てきた、2階(加算で払う分)の一時金です。 毎月の処遇改善手当で配り切れなかった加算の残りを、年度内に払います。

賞与とは、出どころも目的も違います。 賞与は会社の業績などで決め、処遇改善一時金は加算額に合わせて決めます。

③ 似た言葉との違い

何のことか
賞与 会社の業績などを見て決める一時金(本体の売上から払う)
処遇改善一時金 加算の賃金改善額を満たすために払う一時金(加算から払う)
臨時の賃金等 労基法の言葉。臨時に支払われる賃金や賞与など、毎月払う原則から外れる賃金のこと

賃金は毎月1回以上、一定の日に払うのが原則です(労基法第24条第2項)。 臨時の賃金等は、この原則から外れます。賞与も一時金も、毎月払わなくて構わないのは、この例外のおかげです。

この単元では、就業規則(職場のルールを書いた書類)と、その一部で賃金の決まりなどを書いた規程が何度も出てきます。 労働基準法(労基法)やパートタイム・有期雇用労働法の一般論は、労務講座(https://course-roumu.pages.dev)で扱います。ここでは賞与と一時金に関わる所だけ見ます。

第1章 賞与のルール

① 賞与を払う義務は、法律にない 必ず覚える

労基法には、賞与を払う義務の規定がありません。 第89条第4号は、臨時の賃金(賞与など)を「定める場合」には、就業規則に書く必要があると言うだけです。賞与を作るかどうかは、会社が決めます。

ただし、約束した賞与は、払う義務になります。 福岡雙葉学園事件(最高裁、2007年12月18日)では、規程に額や計算方法の決まりがない賞与について、会社が額を決める前に、従業員が支払いを請求できるかが争われました。最高裁は、会社が額を決めた時に初めて具体的な請求権になる、と判断しました。

逆に言うと、規程に額や計算式を決めておくと、会社の判断だけでは変えにくくなるおそれがあります。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。規程に支給額や計算式まで書くと、払う約束と受け取られやすくなります。業績で決める余地を残したいなら、支給の有無と時期を書き、額は会社が決めると書くのが安全です。書き方は社労士に見てもらってください。

② 支給日在籍要件 さらっと

支給日在籍要件とは、賞与の支給日に在籍している人にだけ払う、という決まりです。 賞与の算定期間(賞与の額を決める対象になった期間)には勤めていたのに、支給日の前に辞めた人は、賞与をもらえるのでしょうか。

大和銀行事件(最高裁、1982年10月7日)では、支給日の前に退職した人が、算定期間の分の賞与を請求しました。最高裁は、支給日に在籍する人にだけ払う慣行を就業規則に明文化することは合理的だとして、請求を認めませんでした。

規程に書いておけば、支給日に在籍している人だけに払う、という扱いができます。 ただし、書いていなければ、この話は使えません。

③ 書き方の見本 さらっと

約束になりすぎない書き方の見本です。

賞与は、会社の業績・本人の勤務の状況などを見て、会社が支給の有無と額を決める。支給日に在籍している人に支給する。

ポイントは3つです。 「支給する」でなく「支給の有無を決める」と書くこと、金額を書かないこと、支給日在籍を書くことです。 実際の文面は、事業所の状況によって変わるので、社労士と一緒に決めてください。

第2章 パート・有期の人にも賞与を払うか

① 不合理な差は禁止されている さらっと

登録ヘルパーのような、パートや有期の雇用の人にも、賞与の話は関わります。 パートタイム・有期雇用労働法に、次の決まりがあります。

厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインは改正されました。 改正告示は2026年4月28日の第203号で、2026年10月1日から適用です。

賞与の本文は、次のとおりです。 会社の業績への貢献に応じて払う賞与は、貢献が同じなら同じ額、差があれば差に応じた額を払います。

問題になる例として、正社員には全員に何らかの賞与を払うのに、パート・有期の人には払わない場合があげられています。

② 判例では「払わなくてよい」とされた例もある さらっと

大阪医科薬科大学事件(最高裁、2020年10月13日)では、正職員には賞与があるのにアルバイトには無いことが、不合理な差だと争われました。最高裁は、この事案では不合理ではないと判断しました。

ただし、事案の事情で結論が変わります。 登録ヘルパーについて、厚生労働省が個別に示した解釈は、今のところ見当たりません。登録ヘルパーを有期・短時間で雇っているなら、第8条・第9条とガイドラインがそのまま当てはまります。

分かるまでの安全な扱いは、次のとおりです。 正社員にだけ賞与を払い、登録ヘルパーには払わない場合は、その理由を、仕事の内容や責任、貢献の違いで説明できるようにして、書面に残しておきます。本人から求められた時に、すぐ答えられるようにするためです。 そのうえで、書き方は社労士に見てもらってください。登録ヘルパーの賃金全体の考え方は、No.11で扱います(後で出ます)。

第3章 処遇改善一時金のルール

① 年度内に配り切る 必ず覚える

処遇改善一時金の目的は、加算額以上の賃金改善を、年度内に払い切ることです(No.06)。 最後の加算の入金までに払い終えるのが期限で、足りなければ、一時金で追加します(国のQ&A 1-9)。Q&Aとは、国が出した質問と答えの資料で、ここでは令和8年度(2026年4月〜2027年3月)の分です。足りないまま実績報告(年度が終わったあとに、約束どおり賃金改善をしたと役所に出す報告書)を出すと、足りない分は返還(受け取った加算を、役所に返すこと)の対象になります。事業所を廃止する場合は、最後の給与支払いまでに一時金で精算できます。

流れの例(2026年度)です。

12月:その年度の見込みを集計(手当の累計・加算の請求の見込み)
2月:足りない分の一時金を計算
3月の給与と同時:処遇改善一時金を払う
2027年5月:3月分の加算が入金(介護報酬は、サービスを提供した月の2か月後に入金されるため)。足りなければ最後の追加
2027年7月31日:実績報告

② 賞与とは分ける 必ず覚える

通知(Q&A 1-11)は、業績に連動する賞与の変動は妨げないとしたうえで、加算による賃金改善とは明確に分けるよう求めています。 明細にも「賞与」と「処遇改善一時金」を別の項目で出します(No.07の2階建て)。

もう1つ注意があります。 基本給を上げても、賞与を下げて賃金全体の水準が下がった場合は、特別事情届出書(加算を受けながら賃金水準を下げる時に、役所に出す届出書)が必要になります(Q&A 1-12)。業績が悪い年に賞与を減らす時は、この点も確認します。

③ 年度末の精算の計算例 さらっと

No.07の架空の事業所で、年度末の精算を計算します。

本体は計画どおり月200万円、特定事業所加算Ⅱが20万円、処遇改善加算はⅠイ(27.0%)です。 年の加算額(賃金原資)は712.8万円です。事業主負担(会社が払う社会保険料などの法定福利費)の増加分を15%と仮定すると、職員に支給する額は619.8万円です(No.06・No.07)。

毎月の処遇改善手当の計画は、常勤が各6万円(3人で年216万円)、登録ヘルパーが時給+300円(5人で月200時間、年2,400時間で72万円)で、合計288万円でした。 ところが、常勤の訪問が増え、登録ヘルパーの稼働は1人月30時間(5人で月150時間、年1,800時間)に減ったとします。本体は、常勤の訪問が増えた分で補われ、月200万円のままです。

項目 計算 金額
常勤の手当(年) 6万円×3人×12か月 216万円
登録ヘルパーの手当(年) 300円×1,800時間 54万円
手当の累計 270万円
必要な一時金 619.8万円-270万円 349.8万円

一時金349.8万円の配り方は、事業所が決めます。 たとえば、常勤3人に各65万円(195万円)、登録ヘルパー5人には稼働時間に応じて1時間860円(154.8万円÷1,800時間)とします。

計算がぴったりでも、端数などで少し足りなくなることがあります。 実績の数字が出る前の見込みで払うので、1〜2%多めに配る、という工夫もあります。

④ 一時金は、割増賃金の計算に入る? 深追いしない

残業をした時の割増賃金の計算には、基礎になる賃金があります。 労基法施行規則第21条は、別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金などを、基礎に入れないと書いています。

毎月払う処遇改善手当は、この除外の列挙に出てこないので、基礎に入れて計算します。 年に1〜2回払う一時金が、除外される賃金に当たるかどうかは、金額があらかじめ決まっているかなど、払い方によって扱いが変わることがあります。

ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。当たるかどうかが分かるまでは、一時金も基礎に入れて残業代を見積もっておくと、あとで不足が出る心配が少なくなります。扱いを決める時は、社労士に確認してください。

○ よくある勘違い:「賞与は払うのが決まりだ」。法律に義務はありませんが、規程に書いた約束は義務になります
○ よくある勘違い:「パートには、賞与を払わなくてよい」。不合理な差は禁止で、求められたら説明する義務があります。判例は事情で分かれます
○ よくある勘違い:「処遇改善一時金は、賞与の一部として払えばよい」。出どころが違うので、明細も分けます

賞与を払う義務は法律にないが、規程に書いた約束は義務になる。パート・有期にも不合理な差は禁止。処遇改善一時金は、賞与と分けて、年度内に加算額以上を配り切る。

自社の賃金設計シートに書くこと(欄:昇給・賞与のルール/処遇改善の配り方/社労士・指定権者に聞くこと) 賞与の書き方を1行(支給の有無と額は会社が決める、支給日在籍、など)と、一時金の計算を1行(賃金に回す額-毎月の手当の累計)書きます。賞与の規程の文面と、一時金を残業代の基礎に入れるかは、「社労士に聞くこと」の欄に書き出します。

確認問題

問1 賞与と労基法の関係について、正しい説明はどれですか。

問2 年度末に集計したら、賃金改善額が加算額に足りませんでした。正しい対応はどれですか。

問3 本文の架空の事業所で、手当の累計が270万円、職員に支給する額が619.8万円でした。処遇改善一時金はいくら必要ですか。

問4 2026年10月1日から適用されている、同一労働同一賃金ガイドラインの賞与の考え方として、正しいものはどれですか。

出典(確認日 2026-11-04):労働基準法(第24条・第89条)(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/労働基準法施行規則第21条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)/パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条・第14条(https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076)/厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html)、改正後の本文(https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001696696.pdf)、新旧対照表(https://www.mhlw.go.jp/content/001695906.pdf)/厚生労働省「確かめよう労働条件」賞与の判例(https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/chingin/syouyo.html)/大阪医科薬科大学事件の解説(https://www.mhlw.go.jp/churoi/roushi/dl/R030222-2.pdf)/令和8年度Q&A第1版 介護保険最新情報Vol.1479(https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf)/令和8年度の基本的考え方の通知(https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf)。計算の金額はすべて架空の例です。