訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分2 処遇改善加算★★★

No.03 処遇改善加算の全体像(区分と率)

処遇改善加算が、どういう加算で、どんな区分があって、率がいくらかをつかむ単元です。賃金の一番大きな原資なので、ここで作る区分の表を、後の単元で何度も見返すことになります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 区分と率
  3. 第2章 2026年度の改定のポイント
  4. 第3章 1年間の流れの見取り図
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 処遇改善加算 :賃金を上げるために付く加算

処遇改善加算の正式名は、介護職員等処遇改善加算です。 介護報酬の加算の1つで、受け取った額に相当する賃金の改善を、働く人にしなければならない決まりになっています。 加算を請求して受け取れる状態にすることを、この講座では「算定」と呼びます。

ふつうの加算は、受け取ったお金の使い道が自由です。 この加算は、使い道が賃金に決まっています。売上は増えても、会社の利益にはならないお金だと思ってください。

② 2024年6月の一本化 :3つの加算が1本に

以前は、賃金を上げる加算が3つに分かれていました。 処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算です。

2024年6月に、この3つが「介護職員等処遇改善加算」の1本にまとまりました。 いま使われているⅠ〜Ⅳという区分は、この一本化のあとの形です。以前の3つの名前を聞くことがありますが、いまは1本の加算の中の要件として入っています。

③ 似た言葉との違い

言葉 何のことか
処遇改善加算 介護報酬に上乗せされる加算。毎月の請求に入る
加算率 本体などの合計に掛けて、加算額を出す割合
区分 要件の満たし方で決まる加算のランク(Ⅰ〜Ⅳなど)
特定事業所加算 人材や体制に付く別の加算(No.12で扱います)

「処遇改善加算」と「特定事業所加算」は名前が似ていますが、別の加算です。 特定事業所加算は使い道が自由で、処遇改善加算は使い道が賃金に決まっています。

第1章 区分と率

① 訪問介護の区分と加算率 さらっと

2026年6月分から、訪問介護の処遇改善加算は次の6区分になりました。 2026年5月分まではⅠ〜Ⅳの4区分で、6月分から、Ⅰ・Ⅱが「イ」と「ロ」に分かれた6区分になっています。

区分 加算率
Ⅰイ 27.0%
Ⅰロ 28.7%
Ⅱイ 24.9%
Ⅱロ 26.6%
Ⅲ 20.7%
Ⅳ 17.0%

「ロ」の区分は、2026年度の改定で新しくできました。 2026年4月分・5月分は4区分のままで、Ⅰ 24.5%・Ⅱ 22.4%・Ⅲ 18.2%・Ⅳ 14.5%の率で算定します。6月分から6区分の率に変わります。 率は毎年のように変わるので、この表は覚えずに、手元に置く表として使ってください。

数字の大小は、Ⅰロ>Ⅰイ>Ⅱロ>Ⅱイ>Ⅲ>Ⅳの順です。 この順番は、上の区分ほど満たす要件が多いことと重なっています。

② 区分と要件の対応表 必ず覚える

区分は、どの要件を満たすかで決まります。 まず全体の対応を見て、各要件の中身はNo.04とNo.05で読みます。この表が、講座全体の「要件の強さの順番」の基準です。 「キャリアパス」は、働く人の役割と賃金が上がっていく道筋のことです。

要件 Ⅰ(イ・ロ) Ⅱ(イ・ロ) Ⅲ Ⅳ
月額賃金改善要件 ○ ○ ○ ○
キャリアパス要件Ⅰ(任用・賃金体系) ○ ○ ○ ○
キャリアパス要件Ⅱ(研修計画) ○ ○ ○ ○
キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み) ○ ○ ○ -
キャリアパス要件Ⅳ(年額440万円以上が1人) ○ ○ - -
キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士などの配置) ○ - - -
職場環境等要件 ○(重い) ○(重い) ○(軽い) ○(軽い)
令和8年度特例要件 ロのみ ロのみ - -

「重い」「軽い」は、職場環境等要件で必要な取組の数の違いです(No.05)。 つまり、区分が上がるほど、キャリアパス要件が1つずつ増えていきます。Ⅳから始めて、Ⅲ→Ⅱ→Ⅰと、要件を足していく形です。

③ 加算額の出し方 必ず覚える

加算額は、加算を除いた1か月の報酬に、加算率を掛けて出します。 単位(サービスごとに決まった報酬の点数)で書くと、次の式です。地域の単価は、1単位が何円になるかを地域ごとに決めた値です。

加算額 =(処遇改善加算を除く、1か月の総単位数)× 加算率 × 地域の単価

No.01の架空の事業所(月の本体報酬200万円)で、区分ごとの額を見てみましょう。 特定事業所加算Ⅱ(10%)も取ると、率を掛ける対象が220万円に増えるので、Ⅰイなら54.0万円ではなく59.4万円です(No.01)。

次の表は、特定事業所加算を取っていない段階(率を掛ける対象は本体の200万円)の例です。区分の違いだけを見るためです。

区分 加算率 月の加算額
Ⅳ 17.0% 34.0万円
Ⅲ 20.7% 41.4万円
Ⅱイ 24.9% 49.8万円
Ⅱロ 26.6% 53.2万円
Ⅰイ 27.0% 54.0万円
Ⅰロ 28.7% 57.4万円

ⅣからⅠロまで上がると、月に23.4万円、年にして280.8万円の差になります。 この差は、「配る原資の差」です。上の区分を目指す意味は、この原資の大きさにあります。

第2章 2026年度の改定のポイント

① 対象が「介護職員」から「介護従事者」へ さらっと

2026年度は、2027年度の定期改定を待たずに、期中で改定されました。 大きな変更は、加算で賃金を上げる対象が、介護職員だけから、介護従事者(事務職員など介護職員以外の職種を含む全体)に広がったことです。

国は、全職種で月1.0万円(3.3%)の賃上げを見込んでいます。 さらに、生産性向上(記録のICT化など、仕事の手間を減らす取組)や協働化(複数の事業所が組んで、研修や事務を共同で行うこと)に取り組む事業所には、介護職員分として月0.7万円(2.4%)が上乗せされます。 介護職員の最大の賃上げは、足し算で次のようになります。

1.0万円(全職種) + 0.7万円(生産性向上・協働化の上乗せ) + 0.2万円(定期昇給分)= 最大1.9万円(6.3%)

定期昇給とは、毎年決まった時期に決まったルールで基本給が上がることです(No.09)。

これは国の見込みの数字で、実際にあなたの会社でいくら上がるかは、区分と配り方で決まります。 配り方のルールは、No.06で扱います(後で出ます)。

② 「ロ」になる条件と、誓約の扱い 必ず覚える

Ⅰロ・Ⅱロになるには、イの要件に加えて令和8年度特例要件(令和8年度は2026年4月〜2027年3月)を満たします。 訪問介護の場合は、次のどちらかです。

システムは、加入しただけでは足りず、実際に使った実績を実績報告(年度が終わったあとに出す報告書。No.06)に書きます。

ここで出てくる「誓約」を、1つにまとめて説明します。 誓約とは、申請の時点でまだ満たしていない事項を、2027年3月末までに整えると約束することです。誓約できるのは次の2つです。

誓約すれば、申請の時点から算定できます。 ただし、2027年3月末までに整えられなかった場合や、整えたことを実績報告で報告しなかった場合は、返還(受け取った加算を返すこと)の対象になります(No.06)。誓約は期限つきの猶予であって、要件を免れる約束ではありません。

○ よくある勘違い:「誓約すれば、要件を満たさなくても大丈夫」。誓約は2027年3月末までの猶予で、整えられなければ返還になります(上の説明のとおりです)

③ 新しく増えた加算額は、新たに賃金改善に回す さらっと

2026年度に、上位区分への移行や率の引上げで増えた加算額は、過去の賃金改善の実績に関係なく、新しく賃金改善に回さなければなりません。 賃金改善とは、加算のお金で働く人の賃金を上乗せすることです。 基本はベースアップ(賃金表を書き換えて、賃金を一律に上げること)です。

増えた分は、「去年までの手当に含まれていたから」とは言えない、ということです。 詳しくはNo.06で見ます。

④ 名前の似た補助金に注意 深追いしない

加算とは別に、一時金のような補助金が国から出ることがあります。 2025年度補正予算の「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」が、その1つです。2024年度補正予算には「介護人材確保・職場環境改善等事業」という似た名前の事業もありました。

どちらも処遇改善加算そのものではなく、申請先や計算の基準も別です。 この講座では、加算の設計に集中するため、補助金の細かい中身は扱いません。名前が出てきた時に、どの年度の物かを確かめてください。

第3章 1年間の流れの見取り図

① 計画書から実績報告まで さらっと

処遇改善加算は、取って終わりではなく、1年の流れの中で動かします。

計画書を出す → 毎月の請求に加算が入る → 賃金改善を払う → 実績報告を出す

計画書で「いくら受け取って、どう配るか」を約束し、実績報告で「その通りに配ったか」を報告します。 配り切れなかった場合は返還になることがあります。全体の流れと、返還になる例は、No.06で扱います(後で出ます)。

処遇改善加算は、使い道が賃金に決まった加算。2026年5月分まではⅠ〜Ⅳの4区分、6月分からはⅠイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ・Ⅲ・Ⅳの6区分で、6月分以降の率は28.7%から17.0%。上の区分ほど要件が増え、原資が大きくなる。加算額は「総単位数×率×単価」。

自社の賃金設計シートに書くこと(「売上と加算」の欄)
○ 自社の月の本体報酬(総単位数×地域の単価で円にした額)
○ 取れそうな区分に印を付け、加算額(本体報酬×率)を書く。特定事業所加算を取っているかも一緒に書く
○ 社労士・指定権者に聞くこと:ロの特例要件を満たせるか(指定権者=事業所を指定した市や都道府県に確認)

確認問題

問1 2024年6月に起きた、処遇改善加算の変更は?

問2 月の本体報酬が200万円(他の加算なし)の事業所が、区分Ⅱロ(26.6%)を算定した時の、月の加算額は?

問3 区分Ⅰロになるために必要なことは?

出典:厚生労働省「令和8年度 介護職員等処遇改善加算の基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(老発0313第6号、別紙1表1-1・表1-2・表3、本文2・3)https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf / 令和8年度改定の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675936.pdf / 2024年の一本化の詳細説明資料 https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/A1_info_B.pdf / 令和7年度補正の補助事業の実施要綱 https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/3_R7_kaizenshienjigyou_jisshi.pdf / 令和6年度補正の事業 https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/r7_index_1_1.pdf 。確認日 2026-11-04。