訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分2 処遇改善加算★★★

No.04 キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅴ

処遇改善加算の区分を決める、キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅴの中身を読む単元です。毎年の計画書を出す時と、賃金規程(就業規則のうち、賃金の決まりを書いた書面)を作る時に使います。5つの要件を1つずつ、順に見ていきます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要件Ⅰ〜Ⅲ(書面で整える3つ)
  3. 第2章 要件Ⅳ・Ⅴ(人や体制に関わる2つ)
  4. 第3章 自社の状況を確かめる
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① キャリアパス :役割と賃金の「上がる道筋」

キャリアパスとは、働く人が「どんな役割を経て、賃金がどう上がっていくか」を示した道筋のことです。 たとえばヘルパーとして入り、経験を積んで主任になり、サ責(サービス提供責任者。利用者ごとの訪問計画を作り、ヘルパーを調整する責任者)になる、といった流れです。

処遇改善加算には、「この道筋を書面で整えていること」を求める要件があります。 それがキャリアパス要件で、Ⅰ〜Ⅴの5つに分かれています。

② 就業規則と内規

就業規則とは、賃金・労働時間・休暇などの職場のルールを書いた書面のことです。賃金の決まりだけを取り出して書いた物が賃金規程で、就業規則の一部です。 労働基準法(労基法)の第89条で、常時10人以上の労働者を使う会社は、作って労基署(労働基準監督署)に届け出る義務があります。労働者とは、会社に使われて働き、賃金をもらう人のことです。

10人未満の会社は、就業規則の作成義務がありません。 その場合、加算の要件では、就業規則の代わりに「内規」(社内のルールを書面にした物)でも構わないとされています。作り方は、労務講座のNo.10で扱っています。

③ 区分とキャリアパス要件の対応

どの区分で、どのキャリアパス要件が必要かは、No.03の対応表のとおりです。 区分が上がるほど、キャリアパス要件が1つずつ増えます。Ⅰは5つ全部、Ⅱは4つ(Ⅴを除く)、Ⅲは3つ(Ⅰ〜Ⅲ)、Ⅳは2つ(ⅠとⅡ)です。

第1章 要件Ⅰ〜Ⅲ(書面で整える3つ)

① 要件Ⅰ:任用要件と賃金体系 必ず覚える

要件Ⅰは、次の3つを全て満たすことです。

任用要件とは、「その役割に就くための条件」です。周知とは、決めた内容を、働く人が見て知ることができる状態にすることです。たとえば、主任になるには勤続何年以上、といった条件です。 厚生労働省が示している、訪問系の小規模事業所向けの例では、職位を3段階に分けています。

職位 職責 任用要件 常勤(月給) 非常勤(時給)
上級(主任) 高度な業務・他の職員への指導 勤続●年以上 基本給+経験手当+役職手当 時給+経験手当
中級 通常の介護業務・他の職員への助言 勤続●年以上 基本給+資格手当 時給+資格手当
初級 通常の介護業務 入社時から 基本給+資格手当 時給+資格手当

金額は「●●円」で、国は示していません。年数や金額は、あなたの会社が決める所です。 要件Ⅰは、昇給までは求めていません。 役割と、それに応じた賃金の体系を、書面にすることが要件です(昇給は要件Ⅲです)。

○ よくある勘違い:「就業規則が無いと要件Ⅰは満たせない」。10人未満で作成義務がない会社は、内規でも構いません

② 要件Ⅱ:研修の計画 さらっと

要件Ⅱは、介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標と、具体的な計画を立てることです。 計画には、次のaかbのどちらかを入れます。

そして、その計画を全ての介護職員に周知します。 小さな事業所は、bの資格取得支援が作りやすいです。実務者研修の日はシフトを外す、受講料の一部を出す、といった内容でも要件に合います。

③ 要件Ⅲ:昇給の仕組み 必ず覚える

要件Ⅲは、次のa〜cのどれかの昇給の仕組みを、書面にして周知することです。

bには条件があります。他の法人で資格を取ってから入った人にも、昇給の機会がある仕組みにしなければなりません。 cは、評価の基準と時期を文章にしておく必要があります。

国のQ&Aでは、次のことも書かれています。

つまり、登録ヘルパーも昇給の対象から外せません。昇給の中身はNo.09で扱います(後で出ます)。

第2章 要件Ⅳ・Ⅴ(人や体制に関わる2つ)

① 要件Ⅳ:年額440万円以上が1人以上 さらっと

要件Ⅳは、経験・技能のある介護職員のうち1人以上が、賃金改善後の見込みで年額440万円以上になることです。 もともと440万円以上だった人は数えません。加算で賃金が上がった結果、440万円に届く人が、1人以上いるという意味です。

数え方には、決まりがあります。

では、小さな事業所は難しくないでしょうか。 実は例外があります。小規模で職種間の賃金バランスに配慮が必要な場合・地域の賃金水準が低い場合・規程の整備に時間がかかる場合などに、合理的な説明があれば、満たさなくてもよいとされています。国のQ&Aで、指定権者(事業所を指定している市や県)が幅広く認めるとされています。

例を見てみます(架空の数字です)。 勤続10年以上の介護福祉士が、月給30万円・賞与年80万円なら、年額は30×12+80=440万円です。このように、月給・手当・賞与を合わせた年額で数えます。

② 要件Ⅴ:介護福祉士などの配置 必ず覚える

要件Ⅴは、介護福祉士などを一定以上置いていることです。 訪問介護では、特定事業所加算ⅠまたはⅡの届出をしていることが条件です。

つまり、区分Ⅰを取りたければ、特定事業所加算を先に取る必要があります。 特定事業所加算の中身はNo.12で扱います(後で出ます)。ここでは、要件Ⅴは「加算の届出」で判定される、と分かれば十分です。

第3章 自社の状況を確かめる

① 要件を1枚の表にして、印を付ける さらっと

自社の今の状態を、次の形で書き出してみてください。

要件 今の状態 足りない物
Ⅰ 任用要件・賃金体系 書面にあるか 職位の定義・任用要件・賃金の区分け
Ⅱ 研修計画 計画はあるか 目標・計画・周知
Ⅲ 昇給の仕組み a〜cのどれがあるか 基準の文章化
Ⅳ 440万円 該当者の見込み 例外の説明が要るか
Ⅴ 配置 特定事業所加算の届出 届出の有無

印を付けると、どの区分まで届くかが見えます。 2026年度は、特例要件(No.03)を満たす事業所は、要件Ⅰ〜Ⅳを2027年3月末までに整備する誓約でも、申請の時点から満たしたものとして扱われます。誓約の扱いはNo.03のとおりで、整備できなかった場合は返還(受け取った加算を返すこと)になります。

要件Ⅰは役割と賃金体系、Ⅱは研修計画、Ⅲは昇給の仕組みで、どれも書面と周知が要る。Ⅳは年額440万円以上が1人(例外あり)、Ⅴは特定事業所加算ⅠかⅡの届出。要件Ⅰは昇給までは求めない。

自社の賃金設計シートに書くこと
○ 「等級・基本給・資格手当」の欄:要件Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの今の状態(書面があるか、a〜cのどれか)と、足りない物
○ 「売上と加算」の欄:要件Ⅴ(特定事業所加算ⅠかⅡの届出の有無)
○ 社労士・指定権者に聞くこと:要件Ⅳに該当者がいない時、例外の説明が使えるか(指定権者に確認)

確認問題

問1 従業員が10人未満で、就業規則の作成義務がない会社です。キャリアパス要件Ⅰの「書面で整備・周知」は、どう満たせばよい?

問2 キャリアパス要件ⅠとⅢの違いとして正しいのは?

問3 訪問介護の事業所が、キャリアパス要件Ⅴを満たすために必要な届出は?

問4 要件Ⅳ(年額440万円以上が1人以上)の説明として正しいのは?

出典:厚生労働省「令和8年度 介護職員等処遇改善加算の基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(老発0313第6号、本文3、別紙1表3、様式例「キャリアパス・賃金規程例(小規模事業所用)訪問系(簡易版)」)https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf / 令和8年度 処遇改善加算Q&A(第1版)の問4-6〜4-9・5-1〜5-3・5-8(介護保険最新情報Vol.1479、新宿区掲載の写し)https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf / 労働基準法第89条(e-Gov)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 。確認日 2026-11-04。