訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分1 お金の流れ★★★

No.02 人件費率と損益の見方

売上のうち人に払える割合を知り、自社が払える賃金の上限の見当をつける単元です。賃金を上げ下げする前と、毎月の数字を見る時に開く回で、後半の計算を自分の数字でやってみるところまで進みます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 公的な調査の平均
  3. 第2章 払える賃金の上限を出す
  4. 第3章 人件費の枠を超えるとどうなるか
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 給与費と人件費率 :売上のうち、人に払っている割合

人件費率とは、売上に対して、人に払うお金がどれくらいの割合かを表す数字です。 国の調査では「収入に対する給与費の割合」と書かれています。この講座では、この割合を人件費率と呼びます。

たとえば売上が100万円で、人に払うお金が70万円なら、人件費率は70%です。 訪問介護は、機械や商品を売る商売ではなく、人が動いてお金になる商売です。だから費用の大半が人件費になり、この率が経営の体温計のように働きます。

② 収支差率 :売上のうち、最後に会社に残る割合

収支差率は、売上から費用を全部引いた残りが、売上の何%かを表します。 人件費だけでなく、家賃・車・ガソリン代・事務の費用なども引いたあとの数字です。

人件費率が高いほど、残る割合は小さくなります。 この2つをセットで見るのが、損益の見方の基本です。

③ 似た言葉との違い

言葉 何のことか
人件費率 売上のうち、人に払うお金の割合
収支差率 売上のうち、最後に残るお金の割合
平均給与 働く人1人あたりの給与の平均(金額)

人件費率は「割合」、平均給与は「金額」です。 混ざりやすいので、数字を見たら「これは割合か金額か」をまず確かめてください。

第1章 公的な調査の平均

① 訪問介護の収支差率と人件費率 必ず覚える

厚生労働省の「令和7年度介護事業経営概況調査」に、訪問介護の数字が載っています。 2024年度の決算では、次のようになっています。

2023年度決算 2024年度決算
収支差率(補助金を含まない) 11.1% 9.6%
収入に対する給与費の割合 67.0% 67.8%

収支差率が下がり、人件費率が上がっています。 これは、売上の伸びより、人件費の伸びが大きかったということです。

比べるための目安も、頭に入れておきましょう。 全サービスの平均の収支差率は4.7%で、訪問介護の9.6%は高い方です。ただし訪問介護は、2024年度決算で赤字の事業所が35.1%あります。3つに1つが赤字、ということです。

② 費用の内訳を逆算する さらっと

2024年度の平均の数字から、売上100の使い道を逆算してみます。

売上100のうち、人件費が約7割、それ以外の費用が約2割、利益が約1割です。 これが、訪問介護の平均的な形です。

○ よくある勘違い:全国の平均を「うちの目標」にしてしまう。介護給付費分科会(介護報酬を話し合う国の会議)でも、立地・規模・形態で経営状況は様々なので、全国平均だけで見ないことが論点になっています。平均は、自社の位置を知るための物差しです

第2章 払える賃金の上限を出す

① 売上から、人件費の枠を出す 必ず覚える

No.01の架空の事業所で考えます。 月の本体(加算を除いた基本報酬)が200万円で、処遇改善加算Ⅰイ(27.0%)を取っているとします。ここでは、特定事業所加算(一定の人材・体制を整えた事業所に付く加算)は取っていない段階の例です。加算は200万×0.27=54万円なので、売上は254万円です。 特定事業所加算Ⅱ(10%)も取ると、処遇改善加算は59.4万円、売上は279.4万円になります(No.01の表、No.13)。

118.2万円は、本体200万円の約59%にあたります。

加算を取っていても、本体から払える人件費は、本体の6割弱。 平均の人件費率(67.8%)だけを見て、「売上の7割を払える」と考えて賃金を決めると、加算分を二重に使うことになります。

② 人員に当てはめる 必ず覚える

この事業所の人員を、常勤3人・登録ヘルパー5人とします。 ヘルパー1人が動かせる月商(No.01で40万円台)を踏まえて、常勤1人が月40万円、登録ヘルパー1人が月40時間×4,000円=16万円とすると、3×40+5×16=200万円で、本体と合います(No.01)。

人件費の枠は、本体から118.2万円、加算から54万円で、合わせて約172万円です。 これを8人で分けるので、「1人いくら払えるか」の見当がつきます。 ここで出すのは、払える上限の見当です。No.13では、特定事業所加算も取る前提で、実際の賃金を積み上げて人件費率を出します。

○ 補足:加算の54万円のうち、賃金改善に含められる事業主負担(会社が払う社会保険料などの法定福利費)の増加分も使えます。この扱いはNo.06で扱います(後で出ます)
○ 注意:ここで出した金額は、あくまで枠です。誰にいくら払うかは区分3で決めます

③ 平均給与との比べ方 さらっと

賃金の水準を考える時、国の平均給与が参考になります。 厚生労働省の令和6年度の調査(2024年9月時点)では、処遇改善加算を取っている事業所の訪問介護の介護職員(常勤・月給)で、平均給与額が349,740円です。

この金額は、基本給と手当のほかに、一時金を月割りにした分も含みます。 自社と比べる時は、同じ範囲(基本給+手当+賞与の月割り)に揃えてから比べます。範囲が違うと、差が出ても意味がありません。

なお、この調査の対象は常勤の月給の介護職員で、登録ヘルパーの時給は含まれていません。 2025年度の速報では、介護職員全体の平均給与額が334,500円から341,340円へ約2%上がっていますが、訪問介護だけの数字は確認できていません。

第3章 人件費の枠を超えるとどうなるか

① 赤字になる形 さらっと

同じ事業所で、人件費率が80%まで上がったとします。

月に約6.6万円の赤字です。 人件費率が12ポイント上がっただけで、平均的な黒字が赤字に変わります。賃金を上げる時は、上げた後の人件費率を必ず試算してください。

人件費率は、売上のうち人に払う割合。平均は約68%で、利益は約10%。加算の分は必ず人件費に向かうので、本体から払える人件費は本体の6割弱。賃金を上げる前に、上げた後の率を試算する。

自社の賃金設計シートに書くこと(欄:売上と加算) 自社の人件費率(人件費÷売上)を1行、続けて「本体から払える人件費」の枠(売上×人件費率から、加算の額を引いたもの)を1行書きます。

確認問題

問1 2024年度決算の、訪問介護の平均的な数字として正しい組み合わせは?

問2 本体200万円・処遇改善加算54万円(売上254万円)で、人件費率67.8%のとき、本体の売上から払える人件費は約いくら?

問3 国の調査の平均給与額(349,740円)と自社の給与を比べる時の正しい方法は?

出典:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」(収支差率・給与費割合)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001599503.pdf / 令和6年度介護従事者処遇状況等調査の概要 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/24/dl/r06gaiyou.pdf / 介護職員等の職場環境や処遇に関する実態調査(2025年度速報)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001594198.pdf / 第259回介護給付費分科会(介護報酬を話し合う国の会議)の訪問介護資料(全国平均だけで見ない論点)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001716093.pdf / 令和8年度の実態調査(2025年度決算)は、2026年11月4日時点で未公表です。公表されたら、第1章の数字を差し替えます。確認日 2026-11-04。