訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)
区分4 経営とつなげる★★★周知とは、決めた内容を、働く人が見たり聞いたりして知ることができる状態にすることです。 賃金制度の周知には、2つの意味があります。
2つは重なっています。同じ記録で、両方を満たせるように作るのが、この単元の狙いです。
賃金を下げる・手当をなくす・昇給の条件を厳しくするなど、働く人に不利になる変更のことです。 労働契約法(労契法)が、この変更の条件を決めています。この単元の第2章で読みます。
| 何のことか | |
|---|---|
| 周知 | 内容を知ることができる状態にする(一方向) |
| 同意(合意) | 働く人が内容を理解して、受け入れる(双方向) |
| 届出 | 国や自治体(さいたま市・埼玉県など)に、書類を出す |
周知しただけでは、同意を得たことにはなりません。賃金を下げる時は、この違いが効いてきます。
加算の計画書には、確認事項として「本計画書の内容及び賃金改善の方法を、雇用する全ての職員に対して周知しました」という項目があります。 証明する資料の例は、会議録と周知文書です。
周知する物は、次の4つにまとめておきます。
対象は、雇用する全ての職員です。登録ヘルパーも入ります。 事業所に来る機会が少ない登録ヘルパーには、書面で渡すのが望ましいとされています(労務講座のNo.10)。
周知は、やったことを後から示せないと、やっていないのと同じ扱いになります。 ここからは、法律や通知の決まりではなく、実務のすすめです。 次の項目を1枚にまとめた「周知記録票」を、周知のたびに作ります。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 日付 | 2027年3月5日 |
| 文書名と版 | 賃金規程(2027年4月版) |
| 方法 | 説明会(事業所)・書面の手渡し・郵送・アプリなど |
| 対象者 | 全職員の名簿(欠席者の印付き) |
| 受け取りの確認 | 署名・受領の返信など |
| 欠席者への対応 | 後日に渡した日と方法 |
| 質問と回答 | 出た質問と、答えた内容 |
アプリやメールで送る時は、いつ・誰に送ったかが残る形にします。 書類と根拠資料は2年間保存します。実績報告(年度が終わったあとに出す報告書。No.06)の時に、そのまま出せる場所に置いておきます。
職員から、処遇改善加算に係る賃金改善について照会があった場合は、書面を用いるなど分かりやすく回答することとされています。 口頭で答えて終わりにせず、答えた内容を紙かメッセージで残しておくと安心です。
この回答は、記録票の「質問と回答」欄とそろえておきます。後で「聞かれていない」「教えてもらっていない」と食い違った時の記録になります。
卒業課題の「職員向けに5分で説明する」は、次の4つの順で作ると足ります(ここも実務のすすめです)。
説明に使う数字は、自分の事業所の実際の額を使います。その額は、この講座のページには書かず、手元の資料で作ります。
○ よくある勘違い:「就業規則を事務所に置いてあるから周知した」→ ×。見たいと思った時に見られる状態か、見たことを示せるかが問われます
賃金に関わる変更は、起きた事情で、必要な手続きが変わります。
| 場面 | 不利益変更か | 加算の届出 |
|---|---|---|
| 区分が上がって、配る額が増える | ならない | 区分の変更届(⑤の表) |
| 手当の付け替えで、人によって下がる人が出る | なる | 合意が要る |
| 事業の継続のために、賃金全体の水準を下げる | なる | 特別事情届出書(経営悪化などでやむを得ず賃金水準を下げる時に出す届出。④で説明します) |
| 一部の職員だけ下げて、全体の水準は下がらない | なる | 届出は不要。合意が要る |
賞与を下げて全体の水準が下がった場合も、基本給を上げていても、特別事情届出書が要ります。 全体の水準が下がっていなければ、手当の1項目が下がっても、届出は要りません。
労契法は、労働条件の変更について、次の順番で考えます。
合理的かどうかは、不利益の程度・変更の必要性・変更後の内容の相当性・労働組合などとの交渉の状況などで判断します。 つまり、原則は合意です。合意なしで変える道は、周知と合理性がそろった場合の例外です。この判断は難しいので、社労士に頼む線の1つにしてください(労務講座のNo.10)。
経営が苦しいから、という理由でも同じです。 国のQ&Aは、事業の継続が著しく困難な場合でも、賃金水準を下げるなら、合理的な理由に基づいて適切に労使の合意を得る必要があるとしています。
賃金を下げざるを得ない時は、次の5つの順で進めます。
例です。2027年4月から、資格手当の体系を見直して、一部の人の手当が下がるとします。 同意と周知は3月までに終えて、記録票を作ります。就業規則の改訂は、実績報告と一緒に変更届を出します。
事業の継続のために職員の賃金水準を下げて、そのうえで賃金改善を行う時は、特別事情届出書(様式5)を出します。 書く内容は4つです。
年度をまたいで賃金を下げ続ける時は、次の年度の届出の時にも、もう一度出します。 下げる原因だった状況が改善したら、できるだけ早く、元の水準に戻す必要があります。
出さずに賃金水準を下げると、加算の返還の対象になります(通知の7)。 届出の期日は、通知の5(2)に書かれていません。 分かるまでの安全な扱いは、賃金を下げる前に出す前提で進め、労使の合意を取る時点で指定権者(事業所を指定した市や都道府県。さいたま市の介護保険課など)に相談することです。
○ よくある勘違い:「加算が減ったから、その分賃金を下げてよい」→ ×。下げるなら合意と、場合によっては届出が要ります
制度を変える時に出す届出を、さいたま市の例で表にします(2026年11月時点)。
| 変更の内容 | 届出 | 期日 |
|---|---|---|
| 加算の区分を変える・新しく算定する(例:ⅠイからⅠロ) | 変更届(様式4)と計画書など | 変えたい月の前月15日まで。例:2027年1月なら2026年12月15日 |
| キャリアパス要件ⅠからⅢやⅤが変わって、区分が変わる | 変更届(様式4) | 前月15日まで |
| 処遇に関する就業規則の改訂だけ | 変更届 | 実績報告書と一緒に |
| 賃金水準を下げる | 特別事情届出書(様式5) | 下げる前に指定権者へ確認 |
年度の途中から新しく算定する(加算を請求し始める)場合の計画書の期限は、さいたま市のページに書かれていません。 分かるまでの安全な扱いは、国の原則(算定を始める月の前々月の末日。No.06)に間に合う日程で準備することです。そのうえで、市に確認してください。
社労士に頼む線は、周知の記録が整っていて、変更の中身が決まっている段階です。 厚生労働省の「処遇改善加算 個別相談支援」では、社労士がオンラインで無料相談を受けています。期間は2026年4月から2027年3月までで、定員に達したら終わりです。
周知は、全職員(登録ヘルパーを含む)に、日付・文書・方法・名簿・質問と回答を残す。賃金を下げる時は、原則が合意で、水準を下げるなら特別事情届出書。周知と合意は別の物。
自社の賃金設計シートに書くこと(「社労士・指定権者に聞くこと」の欄)
○ これまでの単元で「聞く」と書いた点を、1つの一覧にまとめる。各項目に、聞く相手(社労士か指定権者)と、聞く期日を付ける
○ 職員への周知の予定(いつ・何を・どう渡し、どう記録するか)と、5分の説明の4つの順(何が変わるか・自分の賃金・いつから・質問先)を、シートの余白に書く
問1 賃金規程を改訂して、事務所の棚に置きました。登録ヘルパーの多くは、月に数回しか事務所に来ません。周知として、まず何をしますか。
問2 経営が苦しいので、全職員の手当を一律に下げようと考えています。正しい考え方はどれですか。
問3 基本給を上げた一方で、賞与を下げた結果、賃金全体の水準が下がりました。必要な手続きはどれですか。
出典: - 令和8年度の処遇改善加算の基本的考え方の通知(5 変更届出書・特別事情届出書、7 返還、8 周知、別紙様式):https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf - 令和8年度Q&A第1版(問1-10〜1-13、介護保険最新情報Vol.1479、2026年3月13日。新宿区に掲載された写し):https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf - 労働契約法(第8条〜第10条):https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128 - さいたま市「令和8年度介護職員等処遇改善加算について」:https://www.city.saitama.lg.jp/005/001/018/011/p129220.html - 処遇改善加算 個別相談支援の案内:https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/23_kobetsu_up.pdf
確認日:2026-11-04。出典のQ&Aは第1版。改訂版が出ている時は、そちらの答えを優先する。