訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分4 経営とつなげる★★★

No.13 賃金原資のシミュレーション(加算や人数が変わった時)

加算の区分が変わった時と、人数が増えた時に、賃金の原資・人件費率・利益がどう動くかを、表で試算する単元です。架空の事業所の数字で、同じ形の表を3回作ります。区分3までで決めた数字が、会社の損益にどう効くかを、金額で確かめます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 現状と、区分が変わる2通り
  3. 第2章 人数が増える場合
  4. 第3章 自社でやってみる
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 賃金原資と人件費率 :配れるお金と、売上に占める人件費の割合

この単元で使う言葉は、次の3つです。

賃金原資のうち、職員への支給は加算額÷1.15、残りが会社の負担分にあたります(No.07)。つまり、加算額は全額が、人件費に入ります。

人件費率は、経営の体温計のようなものです。 この単元では、加算や人数が変わった時に、体温計の数字と、手元に残る利益がどう動くかを見ます。

② 試算の前提 さらっと

試算は、次の前提を置いた架空の事業所で行います。実在の事業所の数字ではありません。

項目 前提
規模 常勤3人(全員が介護福祉士)・登録ヘルパー5人(介護福祉士ではない)。訪問介護員等は8人、介護福祉士は常勤の3人
本体報酬 月200万円(常勤3人×40万円+登録ヘルパー5人×16万円。単位と地域の単価はNo.01)
特定事業所加算 Ⅱ(10%)を取得
処遇改善加算 Ⅰイ(27.0%)を取得
処遇改善加算以外の人件費 月105.8万円(下の内訳)
登録ヘルパー1人 月40時間・訪問1時間あたり本体4,000円、時給1,900円(うち1階の基本時給は1,600円)(全て架空)

「処遇改善加算以外の人件費」の内訳は、No.07の給与明細の例と同じ金額です。

項目 計算 月の金額
常勤3人の基本給と資格手当 (19.0万円+1.0万円)×3人 60.0万円
登録ヘルパー5人の基本時給 1,600円×40時間×5人 32.0万円
職員への支給(1階) 92.0万円
事業主負担(15%と仮定) 92.0万円×15% 13.8万円
処遇改善加算以外の人件費 105.8万円

2階の処遇改善手当(月24.0万円)と一時金は、加算のお金から払う部分なので、ここには入れません。加算額の59.4万円が、その分の人件費にあたります(支給が月約51.65万円、事業主負担が約7.75万円)。

計算を簡単にするため、家賃・車両・事務の費用などの、賃金以外の経費は省いています。 そのため、ここで出す「利益」は、売上から人件費だけを引いた額です。実際の利益ではなく、動き方を見るための数字です。

③ 計算の順番 さらっと

どの試算も、同じ順番で計算します。

  1. 特定事業所加算 = 本体 × 率
  2. 処遇改善加算 =(本体+特定事業所加算)× 率
  3. 売上 = 本体+特定事業所加算+処遇改善加算
  4. 人件費 = 処遇改善加算以外の人件費+処遇改善加算(全額)
  5. 人件費率 = 人件費÷売上 / 利益 = 売上-人件費

2番の対象額は、処遇改善加算を除いた総額です。特定事業所加算も含まれる点に気をつけてください。 4番の「処遇改善加算(全額)」は、第0章①のとおり、加算額が全額、人件費に入るという意味です。

第1章 現状と、区分が変わる2通り

① 現状(基準の表) さらっと

前提のとおりに計算した、現状です。

項目(月・万円) 現状
本体 200.0
特定事業所加算Ⅱ(10%) 20.0
処遇改善加算Ⅰイ(27.0%)=賃金原資 59.4
売上 279.4
処遇改善加算以外の人件費 105.8
人件費(支給額+会社負担)の合計 165.2
人件費率 59.1%
利益(売上-人件費) 114.2

令和7年度の概況調査では、訪問介護の収入に対する給与費の割合は67.8%(2024年度決算)です。この試算の59.1%は、それより低く出ています。 ただし、調査の給与費に何を含めるかと、この試算の人件費は定義が違います。この試算には、管理者や事務の職員の給与が入っていません。比べるのは目安にとどめてください。

② 区分が上がる場合 さらっと

処遇改善加算がⅠイからⅠロ(28.7%)に上がる場合を考えます。 Ⅰロは、Ⅰイの要件に加えて、令和8年度(2026年4月〜2027年3月)の特例要件を満たすと取れます。訪問介護の特例要件は、ケアプランデータ連携システム(事業所とケアマネジャーが、ケアプランのデータをやり取りする国のシステム)の利用か、社会福祉連携推進法人への所属です。

項目(月・万円) 現状(Ⅰイ) 区分が上がる(Ⅰロ)
処遇改善加算=賃金原資 59.40 63.14
売上 279.40 283.14
人件費の合計 165.20 168.94
人件費率 59.1% 59.7%
利益 114.20 114.20

賃金原資は月3.74万円(63.14-59.40。年44.9万円)増えました。 でも、利益は114.2万円のまま動いていません。人件費率だけが少し上がっています。

処遇改善加算は全額を賃金に回す加算なので、上がっても利益は増えません。増えた分は、職員に配ることになります。 区分を上げる目的は、会社の利益ではなく、配れる賃金を増やして、採用と定着に使うことです。

③ 区分が下がる場合 必ず覚える

次は、介護福祉士が1人辞めて、介護福祉士の割合が30%を下回り、特定事業所加算を失う場合です(No.12)。 3人÷8人=37.5%だった割合が、2人÷8人=25.0%になるためです。

処遇改善加算の上位区分(ⅠイとⅠロ)には、キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士などの配置の要件)が要ります。訪問介護では、この要件を満たしている証明として、特定事業所加算ⅠかⅡの届出が求められます。 そのため、特定事業所加算を失うと、要件Ⅴも失って、ⅠイからⅡイ(24.9%)に落ちます。

項目 現状 下がる(人件費を維持) 下がる(人件費を減らす)
特定事業所加算 20.0 0.0 0.0
処遇改善加算=賃金原資 59.4 49.8 49.8
売上 279.4 249.8 249.8
人件費の合計 165.2 165.2 155.6
人件費率 59.1% 66.1% 62.3%
利益 114.2 84.6 94.2

この表では、辞めた人の人件費が減る分は考えていません。

左の「人件費を維持」は、これまで配っていた賃金を、会社が自分の利益から埋めて守る場合です。利益が29.6万円減って、人件費率は66.1%まで上がります。 右の「人件費を減らす」は、加算が減った分だけ賃金も下げる場合です。利益の減りは、特定事業所加算の20万円で収まります。

ただし、賃金を下げるのは簡単ではありません。 労働契約法(労契法)による制約と、加算の特別事情届出書(賃金水準を下げる時に役所に出す届出書)が関わります。手順はNo.14で扱います。

この逃げ道が使えるかは、賃金の作り方で決まります。加算の分を基本給に混ぜ込んでしまうと、下げたい時に分けられません。No.07の2階建てで、あらかじめ分けておく意味はここにあります。

第2章 人数が増える場合

① 登録ヘルパーを増やす 必ず覚える

採用して売上が増えた時の試算です。 登録ヘルパー1人は、月40時間の訪問で本体が16万円(4,000円×40時間)、1階の賃金が6.4万円(1,600円×40時間)とします。事業主負担15%を加えた人件費は、約7.4万円です。

項目(月・万円) 現状 2人増 3人増(介護福祉士は増えない) 3人増(1人が介護福祉士)
訪問介護員等 8人 10人 11人 11人
介護福祉士の割合 37.5% 30.0% 27.3% 36.4%
特定事業所加算 20.0 23.2 0.0 24.8
処遇改善加算 59.4 68.9 61.8 73.7
売上 279.4 324.1 309.8 346.5
人件費の合計 165.2 189.5 189.8 202.9
人件費率 59.1% 58.5% 61.3% 58.6%
利益 114.2 134.6 120.0 143.6

右端の列では、介護福祉士の1人に資格手当(月1万円・架空。事業主負担を加えて約1.2万円)を付けて、人件費に含めています。

ここで見てほしいのは、3人増の2つの列です。 同じ3人を採用しても、介護福祉士が1人いるかで、利益が120.0万円と143.6万円に分かれます。差は月23.6万円です。

2人増は、割合がちょうど30.0%で、加算を保てました。 3人目を介護福祉士ではない人にすると、27.3%に下がって、特定事業所加算も処遇改善加算の上位区分も失います。3人増なのに、2人増より利益が少なくなります。

採用を増やす時は、人数を増やす前に、介護福祉士の割合を計算するのが手順です。 割合の数え方(人数か、勤務時間か)は、届出の手引きに書かれています。この表は人数で数えています。

② 3通りを見比べる 必ず覚える

動いた数字を並べます。

場面 賃金原資 利益 見るべきところ
区分が上がる(Ⅰイ→Ⅰロ) 増える 変わらない 配る賃金を増やせるが、会社の利益は増えない
区分が下がる 減る 減る 特定事業所加算を失うと、利益が減る
人数が増える 増える 増える(割合が保てれば) 割合が崩れると、増えても減る

利益を動かすのは、本体の売上と、特定事業所加算です。 処遇改善加算は、動いても賃金が動くだけです。人件費率や賃金の議論をする時に、この違いを混ぜないようにします。

第3章 自社でやってみる

① 試算の手順 さらっと

自社の数字で作る時の手順は、次の5つです。

  1. 直近3か月の本体報酬の平均(月)と、いま取っている特定事業所加算・処遇改善加算の区分を、請求の控えから出す
  2. 処遇改善加算以外の人件費の月額を、賃金台帳(誰にいくら払ったかを毎月記録する帳簿)から出す(数字は社内の資料にとどめる)
  3. 訪問介護員等の人数と、介護福祉士の人数を数える
  4. 第0章③の計算の順番で、現状の表を作る
  5. 「区分が1つ下がる」「採用が2人・3人増える」など、起こりそうな場面を2〜3つ選んで、同じ形の列を足す

自社の数字は社内の資料にとどめて、公開される場所には載せないでください。

処遇改善加算は、区分が変わっても賃金原資が動くだけで、利益は動かない。利益が動くのは本体の売上と特定事業所加算。採用の前に介護福祉士の割合を計算しないと、人が増えても利益が減ることがある。

自社の賃金設計シートに書くこと(欄:売上と加算/処遇改善の配り方) 自社の現状の表を1つ書きます。そこへ、起こりそうな場面(区分が下がる・採用が増える)の列を2〜3つ足して、利益がどう動くかを1行で書きます。介護福祉士の割合が30%を割りそうな場面があれば、その場面を最初に書きます。

確認問題

問1 処遇改善加算がⅠイからⅠロに上がり、賃金原資が月3.74万円増えました。このとき、会社の利益(売上-人件費)はどう動きますか。

問2 訪問介護員等が8人で介護福祉士が3人の事業所が、登録ヘルパーを3人採用しました。3人とも介護福祉士ではありません。2人採用した時(2人も介護福祉士ではありません)と比べて、利益はどうなりますか。

問3 特定事業所加算を失って処遇改善加算がⅡイに落ちた時、これまでの賃金を会社の利益から埋めて維持すると、利益はどれだけ減りますか。(月・現状の利益は114.2万円)

問4 介護福祉士が辞めて割合が30%を下回り、特定事業所加算を失うと、処遇改善加算も下がるのはなぜですか。

出典: - 令和8年度の処遇改善加算の基本的考え方の通知(加算率・加算額の計算):https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf - 令和8年度改定の概要:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675936.pdf - 令和7年度介護事業経営概況調査(収入に対する給与費の割合):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001599503.pdf - 特定事業所加算の算定構造(第259回介護給付費分科会(介護報酬を話し合う国の会議)の訪問介護の資料):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001716093.pdf

確認日:2026-11-04。試算の金額・人数は全て架空です。