訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)
区分4 経営とつなげる★★★特定事業所加算は、研修・会議・緊急時の対応などの体制と、介護福祉士などの人材、重度の利用者への対応が整った事業所に、本体(基本報酬)の何割かを上乗せする加算です。 上乗せは、サービスごとの報酬に率を掛けて計算するので、売上が大きい事業所ほど金額も大きくなります。 加算を請求して受け取れる状態にすることを、この講座では「算定」と呼びます。
この加算は、事業所の収入として入ります。 次の②のとおり、処遇改善加算のように「賃金に使い切る」決まりはありません。
| 何のことか | 賃金に回す決まり | |
|---|---|---|
| 特定事業所加算 | 体制と人材が整った事業所への、本体への上乗せ | なし(会社の収入) |
| 処遇改善加算 | 介護職員等の賃金のための加算(区分と率はNo.03) | あり(加算額以上を賃金改善に使う。No.06) |
| 資格手当 | 資格を持つ人に会社が払う手当。加算ではなく賃金の1項目 | ― |
名前が似ているサービス提供体制強化加算は、施設や通所のサービスで使う加算です。訪問介護では、特定事業所加算がその役割を担います。
訪問介護の特定事業所加算は、Ⅰ〜Ⅴの5区分です。
| 区分 | 率 | 事業所ベースの算定率(2025年3月提供分。その区分を算定している事業所の割合) |
|---|---|---|
| Ⅰ | 20% | 11.1% |
| Ⅱ | 10% | 34.6% |
| Ⅲ | 10% | 0.4% |
| Ⅳ | 3% | 0.3% |
| Ⅴ | 3% | 0.3% |
率の高いⅠは1割ほどで、Ⅱが3割強です。 つまり、Ⅱを取れているかが、多くの事業所の分かれ目になります。ⅢとⅣ・Ⅴは数が少なく、この講座では扱いません。
要件は、体制の要件、人材の要件、重度者等対応の要件の3種類に分かれます。 どの区分にも、体制の要件(研修計画に基づく研修・会議の定期開催・文書での情報伝達と報告・健康診断・緊急時の対応方法の明示)が要ります。
そのうえで、区分ごとの組合せは、厚生労働省の資料では次のように読み取れます。
この組合せは、介護給付費分科会(国が介護報酬の改定を議論する会議)の資料の表から読み取った物です。 分かるまでの安全な扱いは、介護福祉士の割合を30%ぎりぎりで見ずに、余裕を持たせて見ておくことです(第3章)。 そのうえで、届出をする時は、指定権者(事業所を指定した市や都道府県。さいたま市など)の最新の手引きで、要件と数え方を確かめてください。
Ⅱに必要な人材の要件は、次の(9)か(10)です。
訪問介護員等とは、訪問介護の仕事をするヘルパー全体のことです。 この講座の例では、介護福祉士の割合に絞って考えます。(9)は人数の割合で動くので、採用や退職で簡単に変わるからです。
割合を人数で数えるのか、勤務時間(常勤換算)で数えるのか、いつの時点の人数なのかは、届出の手引きに書かれています。以降の例は、分かりやすく人数で数えています。
○ よくある勘違い:「率が同じなら、ⅡもⅢも同じ扱い」→ ×。次の第2章のとおり、処遇改善加算の条件に使えるのはⅠとⅡだけです
処遇改善加算の上位区分(ⅠイとⅠロ)には、キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士等の配置要件。キャリアパスは、働く人の役割と賃金が上がる道筋のこと)が要ります。 訪問介護では、この要件を満たしたことの証明として、特定事業所加算ⅠかⅡの届出が求められます(No.04で詳しく扱います)。
ⅡイとⅡロには、キャリアパス要件Ⅴは要りません。 つまり、特定事業所加算ⅠかⅡを失うと、処遇改善加算がⅠからⅡに落ちます。
ⅢやⅣは10%や3%でも、この証明には使えません。率が同じでも、ⅡとⅢでは意味が違います。
架空の事業所で計算します。 月の本体報酬が200万円で、訪問介護員等は常勤3人と登録ヘルパー5人の8人です。介護福祉士は常勤の3人で、割合は37.5%です。サ責の実務年数は5年に届かないので、(10)は満たさず、(9)で特定事業所加算Ⅱを取っています。
金額は、分かりやすく、円に直して書きます。単位(報酬の点数)に、地域の単価(1単位が何円か)を掛けた額です(No.01)。
| 特定事業所加算 | 処遇改善加算(対象額に掛ける) | 加算の合計(月) | |
|---|---|---|---|
| 維持できた時 | Ⅱ:200万円×10%=20万円 | Ⅰイ:220万円×27.0%=59.4万円 | 79.4万円 |
| 介護福祉士の割合が崩れた時 | なし:0円 | Ⅱイ:200万円×24.9%=49.8万円 | 49.8万円 |
処遇改善加算の対象額は、処遇改善加算を除いた総額です。維持できた時は、本体200万円と特定事業所加算20万円で220万円になります。 差は月29.6万円で、1年では355.2万円です。
この差の中身は2つあります。
後者は、すでにこの水準で配っていたなら、賃金を下げる話になります。下げる手順はNo.14で扱います。
この事業所は8人中3人で37.5%です。ぎりぎりまで余裕があるわけではありません。
| 場面 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 介護福祉士が1人退職 | 2人÷8人 | 25.0%:30%を下回る |
| 登録ヘルパーを2人採用(介護福祉士ではない) | 3人÷10人 | 30.0%:ちょうど届く |
| 登録ヘルパーを3人採用(介護福祉士ではない) | 3人÷11人 | 27.3%:30%を下回る |
退職だけでなく、採用で人数が増えても、割合は薄まります。 採用を増やす時は、先に割合を計算しておかないと、売上は増えたのに加算を失う、という逆転が起きます。この逆転は、No.13で金額にして見せます。
算定区分が変わる場合は、変更の届出が要ります(前月15日まで。No.14)。
ここからは、法律や通知の決まりではなく、実務のすすめです。 第2章の事業所で考えます。 介護福祉士に払う資格手当を、月1万円とします(架空の額です)。介護福祉士が3人なら、月3万円(年36万円)です。
割合に余裕を作るため、いまいるヘルパーの1人が資格を取って、4人目の介護福祉士になるとします(人数は8人のままです)。 4人で月4万円(年48万円)になり、割合は4人÷8人=50%です。1人が退職しても、3人÷8人=37.5%を保てます。
| 年の金額 | |
|---|---|
| 割合が崩れた時に失う加算(第2章②) | 355.2万円 |
| 4人目の資格手当を含む、資格手当の総額 | 48万円 |
資格手当の総額は、失う金額の7分の1ほどです。 手当だけで資格者が増えるわけではありません。実務者研修や介護福祉士の受験の費用・シフトの調整・休みの援助も、一緒に考えます。これは職場環境等要件の資格関係の項目にもなっています(No.05)。
厚生労働省は、資格手当の金額のモデルを示していません。 目安として使えるのは、処遇状況等調査の資格別の平均給与額です(令和6年度調査・2024年9月・処遇改善加算を取得している事業所の介護職員・常勤)。
| 資格 | 平均給与額(月) |
|---|---|
| 介護福祉士 | 350,050円 |
| 実務者研修 | 327,260円 |
| 初任者研修 | 324,830円 |
| 資格なし | 290,620円 |
介護福祉士と資格なしの差は約5.9万円ですが、これは勤続や役職なども含んだ平均の差です。手当の額そのものではありません。 自社の手当の額は、守る金額(第2章②)と払える人件費(No.02)から逆算して決めます。
資格手当は、処遇改善加算の賃金改善の一部にもできます。賃金改善には手当も含まれるからです。 ただし、特定事業所加算を守るための手当は、特定事業所加算の収入からも出せます。どの財布から出すかは、No.07の2階建てで整理します。
特定事業所加算ⅠかⅡを失うと、処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅴも失い、ⅠからⅡへ落ちる。介護福祉士の割合は退職でも採用でも崩れる。資格手当は、その割合を守るための、小さな費用で大きな金額を守る投資。
自社の賃金設計シートに書くこと(「売上と加算」の欄)
○ 特定事業所加算の区分(Ⅰ・Ⅱ・なし)と、訪問介護員等の人数・介護福祉士の人数・割合
○ 割合が30%を下回るのは何人の退職・採用からか。割合が崩れた時に失う年間の額と、資格手当の月額
○ 社労士・指定権者に聞くこと:割合を人数で数えるか、勤務時間で数えるか(指定権者に確認)
問1 特定事業所加算Ⅱを取っている事業所で、介護福祉士の割合が下がり、加算が取れなくなりました。処遇改善加算はどうなりますか。
問2 訪問介護員等が8人、介護福祉士が3人の事業所が、介護福祉士ではない登録ヘルパーを3人採用すると、割合はどうなりますか。(人数で数える簡略計算)
問3 資格手当を「加算率を買う投資」と見る時の考え方として、正しいのはどれですか。
出典: - 2024年度改定後の特定事業所加算の算定構造・要件(第259回介護給付費分科会 訪問介護の資料。2026年6月29日):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001716093.pdf - 2024年度改定の主な事項(特定事業所加算の見直し):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf - 令和8年度の処遇改善加算の基本的考え方の通知(表2-2・表3):https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf - 令和6年度介護従事者処遇状況等調査の概要:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/24/dl/r06gaiyou.pdf
確認日:2026-11-04。特定事業所加算の区分ごとの要件の組合せは、分科会資料の表による。届出の前に、指定権者の手引きで照合する。