訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分3 賃金制度を組む★★★

No.11 登録ヘルパーの賃金(時給・移動時間・待機時間・同一労働同一賃金)

登録ヘルパーの時給をどう決めるかの単元です。移動時間・待機時間・キャンセルの扱いは、訪問介護でいちばん賃金の相談が出る所なので、時間をかけて読む価値があります。同一労働同一賃金は、「差を説明できる形にしておく」ところまでを扱います。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 どこまでが働いた時間か
  3. 第2章 時給をどう組み立てるか
  4. 第3章 同一労働同一賃金
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 登録ヘルパー :利用者の予定に合わせて訪問する、時給制の働き方

登録ヘルパーは、会社と雇用契約を結んで、決まった日ではなく利用者の予定に合わせて訪問する人のことです。 「登録」という名前でも、会社に雇われて働いているなら、労働基準法(労基法)が当たる「労働者」(会社に使われて賃金をもらう人)です。業務委託かどうかは名前ではなく実態で決まります。この判断は労務講座のNo.02で扱いました。

この単元は、登録ヘルパーが労働者であることを前提に、時給の決め方を考えます。

② 言葉の整理

言葉 何のことか
直接介護の時間 利用者宅でサービスをしている時間。介護報酬が出るのはこの時間
移動時間 事業所・集合場所・利用者宅の間を移動する時間
待機時間 次の訪問まで、会社に命じられて待っている時間
通達 国が、法律の当てはめ方を現場に示した文書。ここで使うのは「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日 基発第0827001号)

介護報酬が出るのは直接介護の時間だけです。 ところが賃金の方は、移動や待機も払う対象になることがあります。この食い違いが、この単元の中心です。

第1章 どこまでが働いた時間か

① 移動時間 必ず覚える

通達の物差しは、会社が移動を命じていて、その時間を自由に使えないなら、労働時間というものです。 利用者宅から次の利用者宅へ移る時間や、事業所から利用者宅へ向かう時間が、通常の移動に要する程度の長さなら、これに当たります。

訪問の合間の15分の移動は、介護報酬が出なくても働いた時間です。 労働時間の基本(1日8時間など)は労務講座のNo.06にあるので、ここでは時給の側から見ます。

自宅から最初の利用者宅へ直行する時間と、最後の利用者宅から自宅へ直帰する時間の扱いは、事業所のやり方で変わります。この講座では扱いません。 分かるまでの安全な扱いは、直行直帰の移動も時間を記録しておき、払う側で組むことです。直行直帰を認める働き方にする時は、そのうえで労基署か社労士に確かめてください。

② 待機・報告書・研修 さらっと

通達は、移動のほかに3つを挙げています。

登録ヘルパーに、訪問記録を自宅でスマホから入力してもらっている場合は、ここに当たる可能性があります。 入力が義務なら、その時間は払う対象です。時間を短くする工夫(入力の簡素化)と、時間を記録して払う仕組みを、両方用意しておくのが安全です。

③ キャンセルと休業手当 必ず覚える

利用者がキャンセルして、予定していた訪問がなくなることは、訪問介護では毎週のように起きます。 会社の責任で働く人を休ませた時は、労基法26条で、平均賃金の60%以上の休業手当を払います。平均賃金は「1日あたりの賃金」のことで、出し方は労務講座のNo.09にあります。

通達の整理は次のとおりです。

例(数字は説明用)です。平均賃金が6,000円の登録ヘルパーが、当日の訪問を1件だけ終えて、賃金が2,500円になったとします。 残りの予定がキャンセルになり、会社の責めと判断される場合は、6,000円の60%=3,600円に足りない1,100円を払います。

利用者のキャンセルだから会社に責任はない、と一律には言えません。 代わりの訪問先を探したかどうかなどを含めて判断します。

○ よくある勘違い:「介護報酬が出ない時間は払わなくてよい」→ ×。報酬が出るかと賃金を払うかは別です

第2章 時給をどう組み立てるか

① 通算の時間で払う 必ず覚える

通達は、賃金を、直接介護の時間だけでなく移動なども含めた通算の時間で算定するとしています。 直接介護と移動の単価は、労使で別々に決めても構いません。ただしどちらの単価も、最低賃金を下回ってはいけません。最低賃金と比べる時、実費の交通費は入れません。

埼玉県の最低賃金は、2026年10月1日から時間額1,196円です(労務講座のNo.09)。

1日の例(数字は説明用)です。直接介護が3時間、移動が合計40分だったとします。

単価の決め方 計算 1日の賃金
介護1,900円・移動1,200円 1,900円×3時間+1,200円×2/3時間 6,500円
介護1,900円・移動1,000円 移動の単価が最低賃金1,196円を下回る 認められない
全時間 一律1,750円 1,750円×3時間40分 約6,417円

2行目は、介護の単価が高くても、移動の単価が低いと認められない例です。 訪問が短くて件数の多い日ほど、移動の割合が増えます。移動の単価の設計が賃金全体に響くのは、このためです。

② 単価の作り方は2通り さらっと

移動に別の単価を付けるか、全時間を一律の単価にするかは、会社が選びます。

どちらでも、移動時間を記録して払うことは同じです。 記録がなければ、通算の時間が分からず、未払いの証拠も会社を守る証拠も残りません。出勤簿などの帳簿は労務講座のNo.12です。

③ 時給に上乗せするもの さらっと

厚生労働省の訪問系のキャリアパスの例では、非常勤(時給)の賃金は「時給+経験手当」「時給+資格手当」の形で書かれています。 登録ヘルパーも処遇改善加算(国が介護職員等の賃金のために出す加算)の配り方の対象です。ここからは、法律や通知の決まりではなく、実務のすすめです。配り方は、時給に上乗せする形が書きやすいです。

非常勤を含む全ての介護職員が昇給の仕組みの対象になり得るようにすること、という決まりもあります(キャリアパス要件Ⅲ。昇給の仕組みを書面にする要件で、No.04・No.09で扱います)。 登録ヘルパーを昇給の対象から外した規程は、要件を満たさない可能性があります。

第3章 同一労働同一賃金

① 登録ヘルパーに当たる3つの条文 さらっと

同一労働同一賃金とは、同じ仕事をしている人の待遇に、雇い方の違いだけで不合理な差をつけない考え方です。 パートタイム・有期雇用労働法が定めていて、登録ヘルパーが有期の契約か、短時間の契約なら当たります。

大事なのは、待遇ごとに考えることです。 「正社員だから高い」と一括りで答えるのではなく、手当ごとに「なぜ差があるのか」を言えるようにしておきます。

② 手当ごとの考え方の例 さらっと

差の理由として使いやすい事情を、手当ごとに並べます。最終的な判断は、実際の仕事の内容や働き方で変わります。

待遇 差を説明する時に使える事情の例
基本の時給 受け持つ仕事の難しさ(重度の利用者・夜間・サ責の補助など)
役職手当 サービス提供責任者(サ責)などの責任の重さ
資格手当 同じ資格で同じ仕事をしているなら、雇い方だけで額を変える理由が見つけにくい
賞与 会社への貢献の違い(No.10で扱います)

資格手当は、登録ヘルパーにも同じ考え方で出すと説明が楽になります。 No.12で扱うように、資格者の割合は加算率に直結します。手当の差で資格者が登録ヘルパーに定着しないと、加算の要件にも響くからです。

③ 2026年10月のガイドライン改正 深追いしない

同一労働同一賃金のガイドラインは改正され、2026年10月1日から適用されています。 賞与の部分が中心で、会社の業績への貢献に応じて払う賞与は、貢献が同じなら同じ額にする、という趣旨です。賞与はNo.10で読みます。

登録ヘルパーだけを別に扱う国の解釈は、示されていません。 有期・短時間で雇っていれば、上の条文とガイドラインがそのまま当たる前提で設計してください。

登録ヘルパーも労働者。命じた移動・待機・義務の報告書は労働時間で、賃金は通算の時間で払い、どの単価も最低賃金以上にする。キャンセルは休業手当の対象になり得る。手当の差は、待遇ごとに説明できる形にしておく。

自社の賃金設計シートに書くこと(「等級・基本給・資格手当」の欄)
○ 登録ヘルパーの時給の組み立て(介護と移動で別の単価か、全時間一律か)と、各単価が最低賃金以上であること
○ 登録ヘルパーの資格手当の額(常勤と同じ考え方で出すか)
○ 社労士・指定権者に聞くこと:直行直帰の扱い、キャンセル時の休業手当の判断(社労士に相談)

確認問題

問1 登録ヘルパーのAさんが、会社の指示でB宅からC宅へ自転車で15分かけて移動しました。賃金の扱いとして正しいのはどれですか。

問2 平均賃金6,000円のヘルパーが、当日の訪問を1件だけ終えて賃金2,500円になり、残りは会社の責めによるキャンセルでした。差額はいくら払いますか。

問3 登録ヘルパーの資格手当を、常勤の半分にしたいと考えています。同じ資格で同じ仕事をしている場合に、正しい考え方はどれですか。

出典: - 訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(平成16年8月27日 基発第0827001号):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1 - 労働基準法(第26条):https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 - パートタイム・有期雇用労働法(第8条・第9条・第14条):https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076 - 同一労働同一賃金ガイドラインのページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html - 改正後のガイドライン本文:https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001696696.pdf - 最低賃金の全国一覧:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

確認日:2026-11-04