訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分3 賃金制度を組む★★★

No.07 賃金の2階建て(本体と加算を分ける)

賃金を「介護報酬の本体で払う分(1階)」と「処遇改善加算で払う分(2階)」に分け、給与明細の項目も分ける考え方の単元です(「2階建て」はこの講座の呼び名で、公式の用語ではありません)。No.08〜10の等級・昇給・賞与は全部この上に乗るので、先に形をつかんでおきます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 2階建ての形
  3. 第2章 なぜ分けるのか
  4. 第3章 変動は一時金で受ける
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 本体と加算 :お金の出どころが2つある

訪問介護の売上は、大きく2つに分かれます。

どちらも同じ口座に入ります。 でも、加算は使い道が決まっているお金です(No.06)。この違いが、賃金の設計に響いてきます。

② 給与明細の項目 :基本給・手当・一時金

給与明細には、いくつかの項目が並びます。

この単元では、「処遇改善手当」「処遇改善一時金」という項目名を使います。 どちらも加算を原資にして払う物で、名前を見れば出どころが分かるようにしておく、という考え方です。

③ 似た言葉との違い

何のことか
賞与 会社の業績や本人の勤務などを見て決める一時金。詳しくはNo.10
処遇改善一時金 加算を年度内に配り切るために払う一時金
処遇改善手当 加算を原資にして、毎月払う手当

賞与と処遇改善一時金は、どちらも「まとめて払う」ので混ざりやすい言葉です。 出どころが違うので、明細の項目も分けます。

④ 賃金原資と、職員に配る額 :加算の額と、支給する額は同じではない

この講座では、賃金原資を「処遇改善加算の加算額」と決めます。 この単元で使う架空の事業所では、月59.4万円、年に712.8万円です(No.01・No.13)。

ただし、職員に支給として配る額は、これより少なくなります。 賃金を上乗せすると、会社が払う社会保険料などの負担も増えます。これを事業主負担(法定福利費)と言い、増えた分も賃金改善額に含めてよい決まりです(No.06)。

事業主負担の増加分を15%と置くと(概算で計算して構いません)、職員への支給額は次のとおりです。

712.8万円 ÷ 1.15 ≒ 619.8万円(月に約51.65万円)

つまり、年712.8万円の賃金原資のうち、619.8万円を職員に支給し、残りの約93万円が会社の負担分にあたります。 この単元の「賃金に回す額」は、619.8万円のほうです。No.10・No.13も、この決め方でそろえています。

第1章 2階建ての形

① 1階と2階 必ず覚える

賃金を、出どころで2階建てにします。

2階:加算で払う分     処遇改善手当(毎月)/処遇改善一時金(年度内に配り切る)
─────────────────────
1階:本体で払う分     基本給/資格手当(登録ヘルパーは基本時給/資格手当)

1階は、本体の売上から払います。 加算があってもなくても払い続ける、会社の約束の部分です。

2階は、加算のお金から払います。 加算の額が変われば、動く可能性のある部分です。

② 給与明細の例 さらっと

架空の事業所の、常勤ヘルパー(介護福祉士)の、ある月の明細です。

項目 金額 階
基本給 19.0万円 1階
資格手当 1.0万円 1階
処遇改善手当 6.0万円 2階
合計 26.0万円

登録ヘルパー(働いた時間だけ時給をもらう、非常勤のヘルパー)なら、時給の内訳を分けます。

項目 時給 階
基本時給 1,600円 1階
処遇改善手当(時給) 300円 2階
合計 1,900円

この事業所では、介護福祉士は常勤の3人で、登録ヘルパー5人は介護福祉士ではありません。そのため、登録ヘルパーの明細に資格手当はありません。 金額は全部架空です。

事業所全体の毎月の支給額は、次のとおりです。登録ヘルパーは、1人月40時間(5人で月200時間)働くものとします。

1階 2階(処遇改善手当)
常勤3人 (19.0+1.0)万円×3人=60.0万円 6.0万円×3人=18.0万円
登録ヘルパー5人 1,600円×40時間×5人=32.0万円 300円×40時間×5人=6.0万円
合計 92.0万円 24.0万円(年288.0万円)

2階の月24.0万円が、この事業所の「毎月の処遇改善手当」の合計です。この数字は第1章③と第3章で使います。 登録ヘルパーの時給の決め方(移動時間や待機時間の扱いも含めて)は、No.11で扱います(後で出ます)。ここでは「項目を分ける」ことだけを覚えてください。

③ 毎月払う2階は、加算の要件にも役立つ さらっと

加算の要件に、月額賃金改善要件があります(No.05)。 加算の一部を、基本給か、決まって毎月払われる手当に充てる決まりです。

この要件の基準額は、処遇改善加算Ⅳの率(17.0%)で計算します。 理由は、この要件が「最も低い区分Ⅳの加算額の半分は、どの区分でも毎月の賃金で払う」という決まりだからです。ⅠイやⅠロを取っていても、基準になる額はⅣで計算した額のままです。

この事業所は、本体200万円と特定事業所加算(一定の人材・体制を整えた事業所に付く加算。No.01)20万円で、率を掛ける対象が220万円です。 220万円×17.0%=37.4万円、その半分は18.7万円です。 毎月の処遇改善手当が合計24.0万円なら、18.7万円以上なので満たせます。

一時金だけに寄せて配ると、この要件は満たせません。 毎月払う手当を2階の中心に置く意味は、ここにもあります。

第2章 なぜ分けるのか

① 実績報告で証明しやすい さらっと

実績報告とは、年度が終わったあとに「加算額以上の賃金改善を払った」ことを役所に示す報告書です(No.06)。 その時、基本給や手当の中に加算の上乗せが混ざっていると、どこまでが加算による分なのか説明しにくくなります。

項目を分けておけば、賃金台帳(誰にいくら払ったかを、毎月記録する帳簿)から「処遇改善手当」と「処遇改善一時金」の合計を取り出すだけで、賃金改善額が出ます。 通知(Q&A 1-11)も、賞与などの業績に連動する変動と、加算による賃金改善を明確に分けるよう求めています。根拠の資料は2年間保存します。

② 加算が減った時に、基本給を下げずに済む 必ず覚える

加算は、改定や事業所の売上の変動で減ることがあります。 その時に、基本給に加算の上乗せを混ぜてあると困ります。基本給を下げる話になってしまうからです。

賃金を、働く人に不利になる形で一方的に変えることを、不利益変更と呼びます。とても難しい扱いです。 労働契約法(労契法)の決まりは次のとおりです。

就業規則は、職場のルールを書いた書類で、賃金の決まりを書いた賃金規程もその一部です。周知は、職員に知らせて、いつでも見られる状態にすることです。

つまり、1階(基本給)に混ぜてしまうと、後から戻すのが難しいということです。 2階に分けておけば、「手当や一時金を見直す」という形で動かせる余地が残ります。

ただし、手当を下げる場合も不利益変更になり得ます。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。2階の手当は、「加算を取って請求していることが前提で、加算の状況が変われば見直すことがある」という趣旨を、規程と入社時の説明に最初から書いておくと安全です。文面は社労士に見てもらってください。

さらに、加算の側でも賃金水準を下げる時は、特別事情届出書(加算を受けながら賃金水準を下げる時に、役所に出す届出書)が要ります(No.06)。 下げる前提の設計はしないで、「下げなくて済む形」を先に作る、という順番が大切です。

③ 職員に説明できる さらっと

明細に「処遇改善手当」と出ていれば、「この手当は国の処遇改善加算が原資です」と一言で説明できます。 職員は、自分の賃金のどこが会社の約束で、どこが加算の連動なのかが分かります。

説明の仕方と周知の手順は、No.14で扱います(後で出ます)。

第3章 変動は一時金で受ける

① 一時金を調整弁にする 必ず覚える

加算額は毎年変わる可能性があります。 そこで、増減を一時金で受け止める形にします。このような、増減を受け止める部分を調整弁と呼びます。

架空の事業所で試算します。 本体が月200万円、特定事業所加算Ⅱ(10%)、処遇改善加算Ⅰイ(27.0%)です。毎月の処遇改善手当は、第1章②のとおり合計24.0万円(年288万円)です。

試算の置き方は、No.06の例と同じです。年間で同じ率が続き、事業主負担は15%の概算とします。特定事業所加算は本体の10%のまま動くものとして、小数第2位以下は四捨五入します。 「賃金に回す額」は、第0章④のとおり、加算額を1.15で割った額です。

本体(月) 年の加算額(賃金原資)(本体×1.1×27.0%×12) 賃金に回す額(÷1.15) 毎月の手当(年) 処遇改善一時金
200万円(計画どおり) 712.8万円 619.8万円 288.0万円 331.8万円
210万円(増えた) 748.4万円 650.8万円 288.0万円 362.8万円
190万円(減った) 677.2万円 588.8万円 288.0万円 300.8万円
80万円(6割減った) 285.1万円 247.9万円 288.0万円 0円(40.1万円の持ち出し)

本体が増えれば、一時金を増やして配り切ります。 本体が減っても、一時金を減らすだけで、毎月の手当も基本給も動かさずに済みます。

4行目は、調整弁が効かなくなった例です。 一時金をゼロにしても、毎月の手当だけで賃金に回す額を超えてしまいます。この超えた分は、会社の持ち出しです。

毎月の手当が年288万円なら、本体が月約93万円(200万円から約54%減)までは、一時金で受け止められます。 毎月の手当は、本体が大きく減っても一時金をゼロにすれば払える額に収めておく、というのが設計の目安です。この事業所なら、下限は本体の約5割減です。

② 登録ヘルパーの時給上乗せは、年度末に差を見る さらっと

登録ヘルパーの処遇改善手当(時給)は、稼働時間で総額が変わります。 上の試算では、5人で月200時間(年2,400時間)を想定していますが、実際は増減します。

そこで、年度末に手当の累計と必要な賃金改善額を比べます。 差が出た分を、一時金で調整します。計算と配り方の実例は、No.10で扱います。

○ よくある勘違い:「2階建ては、基本給が低くて手当が多い制度のこと」。分けるのは出どころで、手当の多さではありません
○ よくある勘違い:「一時金で調整すれば、加算が増えても減っても自由」。毎月の手当を高く決めすぎると、4行目のように調整が効かなくなります

賃金は、出どころで1階(基本給・資格手当)と2階(処遇改善手当・一時金)に分け、明細の項目も分ける。理由は、実績報告で証明しやすい・基本給を下げずに済む・職員に説明できる、の3つ。変動は年度末の一時金で受ける。

自社の賃金設計シートに書くこと(欄:等級・基本給・資格手当/処遇改善の配り方) 自社の明細を1階と2階に分けた項目名の一覧と、毎月の処遇改善手当の合計(年額)を書きます。続けて、「本体が約5割減っても、毎月の手当が賃金に回す額に収まるか」を1行で確かめます。

確認問題

問1 次のうち、2階建ての「2階」に入る項目はどれですか。

問2 加算の上乗せ分を、基本給に混ぜて払うことの問題として、正しいものはどれですか。

問3 本文の架空の事業所(毎月の手当が年288万円)で、本体が月190万円に減りました。処遇改善一時金はいくらになりますか。

問4 月額賃金改善要件の基準額を、処遇改善加算ⅠイではなくⅣの率(17.0%)で計算するのは、なぜですか。

出典(確認日 2026-11-04):厚生労働省「令和8年度(2026年4月〜2027年3月)の介護職員等処遇改善加算の基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」老発0313第6号(https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf)/令和8年度Q&A第1版 介護保険最新情報Vol.1479(https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf、新宿区に掲載された写し)/労働契約法(e-Gov法令検索、第8条〜第10条)(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)。給与明細の金額・加算率の試算は、すべてこの講座の架空の例です。