訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)

区分2 処遇改善加算★★★

No.06 配り方のルールと計画書・実績報告(返還になる例)

処遇改善加算を取ったあと、そのお金を「どう配るか」の決まりと、役所に出す2つの書類(計画書・実績報告書)の単元です。ここを外すと、加算を受けたのに返す羽目になります。区分2の最後で、後の賃金設計(No.07〜10)の前提にもなるので、1つずつ順に確かめてください。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 配り方のルール
  3. 第2章 役所に出す書類
  4. 第3章 返還になる例
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 賃金改善 :加算のお金で、働く人の賃金を上乗せすること

処遇改善加算は、事業所に入る売上の一部です。 ただし、使い道が決まっているお金です。加算を請求して受け取れる状態にすることを、この講座では「算定」と呼びます。加算が入った分は、働く人の賃金を上乗せする形で払わなければいけません。この上乗せを「賃金改善」と呼びます。

ここでいう「賃金」は、基本給・手当・賞与です。退職手当は含みません。 つまり、加算で入ったお金を、そのまま会社の利益として残すことはできません。

② 計画書と実績報告書 :役所に出す2つの書類

年度の初めに予算を宣言して、終わりに決算を報告する流れと同じです。 提出先は、事業所を指定した市や都道府県(指定権者)です。

③ 似た言葉との違い

何のことか
本体 訪問の時間に応じて入る基本報酬(No.01)。加算は含みません
加算額 処遇改善加算として入るお金。加算を除いた1か月の総単位数に、加算率を掛けて出します
賃金改善額 実際に上乗せして払った賃金の合計。事業主負担(会社が負担する社会保険料などで、法定福利費ともいう)の増加分も含められます

第1章 配り方のルール

① 加算額以上を、賃金に回す 必ず覚える

いちばん大事なルールはこれです。加算額に相当する額以上の賃金改善をします。

架空の事業所で考えます。月の本体報酬が200万円で、特定事業所加算Ⅱ(10%)を取っていて、処遇改善加算はⅠイ(27.0%)です。この事業所は、No.13の試算と同じです。 処遇改善加算は、本体と特定事業所加算を足した220万円(200万円+20万円)に率を掛けます(No.01)。 加算額は、220万円×27.0%=月59.4万円です。1年(12か月)で712.8万円になります。 この加算額を、この講座では「賃金原資」(賃金改善に使える元手)と呼びます(No.07)。

この712.8万円以上を、賃金の上乗せにして払います。 賃金の上乗せに伴って増える事業主負担(法定福利費)は、賃金改善額に含められます。概算で計算して構いません。話を簡単にするため、事業主負担を15%と置くと、賃金そのものに回す額は次のとおりです。

712.8万円 ÷ 1.15 ≒ 619.8万円
(賃金に619.8万円を上乗せして払い、事業主負担の増加分が約93.0万円)

細かい決まりが3つあります。

反対に、含められない物もあります。 キャリアパス要件(役割と賃金が上がる道筋を書面で整える要件)や職場環境等要件のために使った費用(研修費や環境整備の費用など)は、賃金改善額に入れられません。

② 誰に、どれだけ配るか さらっと

配り先は、介護職員だけではありません。 事業所の中で、介護職員以外の全職種を対象にして、柔軟に配分できます。

ただし、制限もあります。

賃金改善の前に年収440万円以上だった職員も、対象にできます。 小さな事業所では、登録ヘルパーを対象から外した配り方は避けた方が安全です。偏りと見られるうえに、昇給の要件(No.09)でも非常勤を含む設計が求められるからです。

2026年度に新しく増えたルールもあります。 上位の区分に移った時、6月から加算率が上がった時、Ⅰロ・Ⅱロに移った時の3つで、増えた加算額です。この増加分は、過去の実績とは関係なく、新たに賃金改善をします。

基本はベースアップ(賃金表を書き換えて全員を引き上げること)です。 ベースアップだけで届かない時は、手当や一時金を組み合わせても構いません。

③ いつ払うか さらっと

加算は、サービスを提供した月の売上として、国民健康保険団体連合会(国保連。介護報酬の請求先)に請求して受け取ります。入金は通常2か月後です。 賃金の上乗せを払う月は、次の3つから事業者が選べます。

パターン 例(6月の訪問分)
サービス提供月の当月に払う 6月の給与で払う
翌月に払う 7月の給与で払う
入金月に払う 8月の給与で払う

どれでも構いませんが、一度決めたら賃金規程(就業規則のうち賃金の決まりを書いた書面)の支払日と合わせて、毎月同じ形で払います。

第2章 役所に出す書類

① 計画書 さらっと

計画書の期限は、新しく算定を始める月の前々月の末日が国の原則です。 たとえば2027年1月から新しく算定するなら、2026年11月30日です。

区分を上げる時(例:ⅠイからⅠロ)は、別の期限です。 体制届・変更届・計画書などを、変えたい月の前月15日までに出します。2027年1月に変えたいなら、2026年12月15日です。

2026年度は特例の期限(4月・5月から算定なら4月15日、6月から新しく算定なら6月15日)でした。 さいたま市のページには、7月以降に新しく算定する場合の期限が書かれていません。 分かるまでの安全な扱いは、国の原則(算定を始める月の前々月の末日)に間に合う日程で準備することです。そのうえで、自分の事業所の指定権者に、早めに確認してください。

② 実績報告書 さらっと

実績報告書の期限は、最後の加算の支払いがあった月の翌々月の末日です。 2026年度分は、通常は2027年7月31日になります。

流れを並べると、こうなります。

2026年6月〜2027年3月:加算を算定し、賃金改善を払っていく
        ↓
2027年5月:2027年3月分の加算が入金される
        ↓
この入金までに、加算額以上の賃金改善を払い終える
        ↓
2027年7月31日:実績報告書を出す(根拠資料は2年間保存)

さいたま市の場合、提出は電子申請届出システムかメールです。 指定権者によって提出方法が違うので、自分の事業所の案内を見てください。

③ 賃金水準を下げる時 さらっと

事情があって、賃金の水準を下げざるを得ない時もあります。 その時は、特別事情届出書(様式5。経営悪化などでやむを得ず賃金水準を下げる時に出す届出)を出します。赤字などの状況、下げる内容、改善の見込み、労使の合意を書きます。

出さずに下げると、次の章の返還の対象になります。 賃金を下げる話は、No.07で出てくる「2階建て」の設計とも深く関わります。

第3章 返還になる例

① 返還になる4つの場合 必ず覚える

返還とは、受け取った加算を、国や自治体に返すことです。 国の通知(7 返還・取消し)が挙げる4つを、架空の事業所の例で見てみましょう。

返還になる場合 例
加算額以上の賃金改善がされていない 年度末に集計したら、賃金改善額が650万円で、加算額の712.8万円に届かなかった
特別事情届出書を出さずに賃金水準を下げた 加算が減ったので、届出なしに手当を減らした
算定要件を満たしていない 届出の時に研修計画があると書いたが、実際には作っていなかった
虚偽や不正な手段で加算を受けた 実際には払っていない手当を、払ったことにして報告した

このほかに、次の物も返還の対象です。

② 足りなかった時の逃げ道:一時金で追加する 必ず覚える

賃金改善額が加算額に足りない時は、原則として返還の対象です。 ただし、足りない分を賞与などの一時金で追加して配れば、返還を求めない扱いにできます(Q&A 1-9)。事業所を廃止する場合も、最後の給与支払いまでに一時金で精算できます。

先ほどの例(賃金改善額650万円、加算額712.8万円)なら、足りないのは62.8万円です。 事業主負担の増加分を含められるので、賃金の上乗せとしては約54.6万円(62.8万円÷1.15)を追加すれば足ります。

この逃げ道があるからこそ、変動する分は一時金で調整するという設計ができます。 その形が次の単元(No.07)です。調整弁(金額が増減する分を受け止める部分)を一時金にしておく、という意味です。

○ よくある勘違い:「加算は取れたから、あとは自由に使える」。使い道は決まっていて、年度が終わったあとで確かめられます
○ よくある勘違い:「手当を増やせば、基本給は据え置きでも十分」。基本給での改善が望ましいとされますが、手当でも構いません。ただし毎月払う分の最低ラインがあります(No.05)

加算額以上の賃金改善を、年度内に払い切る。足りなければ、最後の入金までに一時金で追加する。賃金を下げる時は特別事情届出書。実績報告は通常7月末。

自社の賃金設計シートに書くこと(「処遇改善の配り方」の欄)
○ 加算額(月・年)と、賃金そのものに回す額(加算額÷1.15。事業主負担を15%と置いた場合)
○ 配り先(登録ヘルパーを含むか)と、払う月(当月・翌月・入金月のどれか)
○ 計画書を出す期限の日付
○ 社労士・指定権者に聞くこと:7月以降に新しく算定する時の計画書の期限

確認問題

問1 月の加算額が59.4万円の事業所が、1年間で賃金改善額(事業主負担の増加分を含む)を680万円しか払いませんでした。年間の加算額は712.8万円です。正しい扱いは?

問2 2026年度分の実績報告書の期限は、通常いつですか。

問3 加算が減ったので、届出をせずに、手当を月2万円から1万円に下げました。どうなりますか。

出典(確認日 2026-11-04):厚生労働省「令和8年度 介護職員等処遇改善加算の基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」老発0313第6号(https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf)/令和8年度Q&A第1版 介護保険最新情報Vol.1479(https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf、新宿区に掲載された写し)/さいたま市「令和8年度介護職員等処遇改善加算について」(https://www.city.saitama.lg.jp/005/001/018/011/p129220.html)/埼玉県の期限表(https://www.pref.saitama.lg.jp/a0603/shinsei-tetsuduki/r8syoguu.html)