訪問介護の賃金・キャリア設計講座(処遇改善加算・昇給・賞与・経営)
区分1 お金の流れ★★★訪問介護の売上は、ほとんどが介護報酬です。 介護報酬とは、介護保険のサービスをした時に、事業所が受け取る代金のことです。国が値段を決めていて、会社が自由に値上げすることはできません。
飲食店のように「メニューの値段を自分で決める」商売ではない、というのが最初の違いです。 売上を増やすには、値段を上げるのではなく、訪問の数を増やすか、取れる加算を増やすかのどちらかになります。
代金の支払いは、利用者の自己負担分と、保険から出る分に分かれて入ってきます。 この講座では、その合計を「売上」と呼びます。
介護報酬の値段は、円ではなく「単位」という点数で決まっています。 たとえば身体介護の30分以上1時間未満は、1回で387単位です。
この単位を円に直す時に、「1単位がいくらか」を掛けます。これが単価です。 単価は全国一律ではなく、地域によって10円から11.40円の間で決まっています。
人件費は地域によって違います。 そこで、都市部ほど単価が高くなるように、地域を「1級地・2級地…その他」に分けています。
訪問介護の単価は、次の式で決まります。
単価 = 10円 + 10円 × 地域の上乗せ率 × 0.7
0.7は、訪問介護の人件費の割合として置かれている数字です。 1級地の上乗せ率は20%なので、10+10×0.20×0.7=11.40円です。上乗せのない「その他」の地域は10円です。
自社の地域がどの級地で、1単位が何円なのかは、指定権者(事業所を指定した市や都道府県)の案内で確認できます。 この講座の計算例では、仮に3級地の11.05円(10+10×0.15×0.7)を使います。
| 言葉 | 何のことか |
|---|---|
| 本体 | 加算を除いた、サービスそのものの報酬(基本報酬) |
| 加算 | 一定の体制や実績があると、本体に上乗せされる報酬 |
| 介護報酬 | 事業所が受け取るお金(売上) |
| 給与 | 事業所が、働く人に払うお金(費用) |
介護報酬と給与は、別の物です。 介護報酬は国が決め、給与は会社が決めます。この2つの間にある差が、会社に残るお金になります。
売上の計算は、単位数に単価を掛けるだけです。
売上(円)= 単位数 × 1単位の単価
身体介護の30分以上1時間未満(387単位)を、単価11.05円の地域でやった場合を見てみましょう。 387×11.05=約4,276円です。これが1回分の売上です。
1回の訪問が、4,000円台。 この数字を頭に置いておくと、次の「1か月」の計算が実感を持って読めます。
1か月の売上は、訪問の回数を足し上げて計算します。 常勤のヘルパー1人が、1日6回、月に20日訪問して、全部が387単位の身体介護だったとします。
これが、1人で動かせる月商のほぼ上限です。 実際にはキャンセルや空き時間があるので、稼働が8割だったとすると約41万円になります。生活援助は単位が低い(20分以上45分未満で179単位)ので、混ざればさらに下がります。
ヘルパー1人が動かせる月商は、40万円台。 これが、この後の賃金の上限を考える時の出発点になります。
○ よくある勘違い:「売上=単位数」と思って、円に直さずに比べてしまう。他の事業所や調査と比べる時は、必ず円に直してから
○ よくある勘違い:移動時間は報酬にならない。訪問していない時間の売上は0。賃金の話(No.11)で効いてきます
本体の単位数は、2024年4月の改定で引き下げられました。
| サービス | 改定前 | 改定後 |
|---|---|---|
| 身体介護 20分以上30分未満 | 250単位 | 244単位 |
| 身体介護 30分以上1時間未満 | 396単位 | 387単位 |
| 生活援助 20分以上45分未満 | 183単位 | 179単位 |
下がり幅は2%前後ですが、毎月の売上に直すと効いてきます。 一方で、同じ2024年度の改定には、処遇改善にあたる部分の引上げ(6月施行)も入っていました。本体は下がり、加算は上がる。だから本体と加算は、別々に見る必要があります。
特定事業所加算は、介護福祉士の割合など、一定の人材や体制を整えた事業所に付く加算です。 Ⅰ〜Ⅴの5区分があり、加算率はⅠが20%・Ⅱが10%・Ⅲが10%・Ⅳが3%・Ⅴが3%です。
何を満たせば取れるのかは、No.12(後で出ます)で扱います。 ここでは、「本体に対して、10%や20%が上乗せされるものがある」と分かれば十分です。
処遇改善加算は、働く人の賃金を上げるために付く加算です。 訪問介護では、区分によって17.0%から28.7%(2026年6月以降)の率が付きます。
ポイントは、率を掛ける相手が「本体だけ」ではなく、「処遇改善加算を除いた1か月の総単位数」だということです。 つまり、本体に他の加算(特定事業所加算など)を足した合計に、率を掛けます。
区分ごとの中身はNo.03(全体像)で扱います。ここでは、売上への効き方を見ておきましょう。
月の本体報酬が200万円の事業所で、考えてみます。
| 状況 | 計算 | 月の売上 |
|---|---|---|
| 本体だけ | 200万円 | 200万円 |
| 本体+処遇改善加算Ⅳ(17.0%) | 200万+200万×0.17 | 234万円 |
| 特定事業所加算Ⅱ(10%)を取り、処遇改善加算Ⅰイ(27.0%) | 本体200万+20万=220万、220万×0.27=59.4万 | 279.4万円 |
処遇改善加算Ⅳだけの234万円と、特定事業所加算も取った279.4万円では、同じ本体でも月の売上が約45万円(約2割)違います。 特定事業所加算を取ると、それ自体の20万円に加えて、処遇改善加算の計算のもとが増える点にも注目してください。
3行目の「本体200万円・特定事業所加算Ⅱ・処遇改善加算Ⅰイ」が、この講座の架空の事業所の基本の数字です(No.13で詳しく試算します)。No.02〜05には、加算の効き方を1つずつ見るために、特定事業所加算を取っていない段階の例も出てきます。
この本体200万円の中身も決めておきます。計算を簡単にするため、訪問1時間あたりの本体を4,000円(約362単位)とします。 常勤ヘルパー3人は1人あたり月40万円、登録ヘルパー5人は1人あたり月40時間×4,000円=16万円なので、3×40+5×16=200万円です。登録ヘルパー(働いた時間だけ時給で働く、非常勤のヘルパー)の賃金は、No.07・No.13でこの時間を使います。
ただし、処遇改善加算のお金は、全部が賃金に向かうと決まっています(No.06で扱います)。 だから「売上が増えた」ことと「会社に残るお金が増えた」ことは、別の話です。
○ 補足:処遇改善加算は、利用者のケアプランの「区分支給限度基準額」(ケアプランで使える介護保険の上限額)の対象外です。つまり、加算を取ったことで利用者の使える枠が減る、ということはありません
○ 関係する単元:No.02(人件費率)/No.03(処遇改善加算の区分)/No.12(特定事業所加算)
毎月の請求は、事業所ごとの単位数の合計で出ています。 やることは1つで、自社の1か月分の合計単位数に、自社の単価を掛けて、売上の円を出してみます。
本体と加算を分けて書き出すと、「加算が売上の何割を占めているか」が見えます。 これが、No.02で人件費率を見る時の入口になります。
売上=単位数×地域の単価。ヘルパー1人が動かせる月商は40万円台。処遇改善加算は「本体+他の加算」に率を掛けるので、加算の取り方で売上は2割ほど変わる。
自社の賃金設計シートに書くこと(欄:売上と加算) 自社の直近1か月の本体報酬(単位数の合計×単価=円)と、いま取っている特定事業所加算・処遇改善加算の区分を書きます。本体と加算を分けて書くのがコツです。
問1 ある月の単位数の合計が46,440単位で、1単位が11.05円の地域です。この月の売上のおよその金額は?
問2 本体が200万円で、特定事業所加算Ⅱ(10%)を取りました。処遇改善加算の額は、何に率を掛けて計算しますか?
問3 訪問介護の売上を増やす方法として、介護報酬の仕組みから正しい説明は?
出典:厚生労働省「令和8年度(2026年4月〜2027年3月)の介護職員等処遇改善加算の基本的考え方…」(老発0313第6号、処遇改善加算は区分支給限度基準額の対象外であること・別紙1表1-2の加算率)https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf / 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項」(基本報酬の単位数・特定事業所加算の見直し)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf / 令和6年度改定後の算定構造 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195509.pdf / 地域区分と1単位の単価の仕組み(上乗せ率・人件費割合0.7):厚生労働省 給付費分科会(介護報酬を話し合う国の会議)資料 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000635473.pdf(この資料は2020年のもの。自社の級地と現在の単価は、指定権者の案内で確かめてください)。確認日 2026-11-04。